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□血の鎖 第十一章
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好きな人と、一緒に居られる事が、こんなにも素敵な事だったなんて、知らなかった。
好きな人と、愛し合えることが、こんなにも充実する事だったなんて、知らなかった。
好きな人と、交わす口付けが、こんなにも心を満たしてくれるだなんて、知らなかった。



好きな人と、

一つになる事がこんなにも、

幸せだなんて知らなかった。


何も、
何も、知らなかった…―――






+++ 血の鎖 第十一章 +++

 ― 第一幕 幸福 ―







あれから、一晩が明けた。
囀る小鳥の音色に誘われて起きてみれば、身体はだるく、腰もずきずきと痛んだ。
「ッ…」
身体全体に広がる、疲労感。
アイドは、その痛みに顔を歪め、のそのそとベッドの上で身を擡げた。
あの、後。
二人揃って、同じベッドに寝た。
快楽を貪りあって、果てて、共に眠りについた。
「……ッ」
思い出すだけで、恥ずかしさに頬が赤くなる。
昨夜、二人は互いの身体を貪りあった。
互いの性を感じあった。
セックスに、身を投じ、溺れたのだ。
(やば、い…)
アイドは、口元を手で覆い、視線を伏せる。
思い出せば思い出すほど、身体を熱くさせる、昨夜の行為。
でも、とても心の中に、酷く満ち足りていく感覚が膨らんでいく。
好きな人と、結ばれるという事が、こんなにも嬉しい事だとは思わなかった。
本当に、どうしようもない程の、愛おしさが溢れ出して来る。
(…、レイ…ジ)
巡らせた視線の先。
ふと、身じろぐ逞しい、身体。
(この、身体に…)

抱かれた。

「っっ」
そう考えるだけで、もう思考がパンクしそうになった。
温かい腕が、急に自分の身体を抱き寄せる。
「っわ」
押し当てられる、厚い胸板。
どきどきと、跳ねる心臓の音が、密着すればするほど更に煩くなる。
「レ、レイジ…っ」
恥ずかしさが、更に湧き上がってきて、身体を離して欲しくて、腕に力をこめるが、全く動かない。
(だめっ…)
どきどき、煩い音。
暖かい感触に、持って行かれそうになる意識。
「レイ、ジッ…」
絞り出した声は、何処か震えていた。
「ん…っ」
レイジの、吐息が漏れて、うっすらと開かれる、瞳。
見上げれば、とても近い位置に、彼の顔がある。
「アイ、ド…?」
うっすら開いた瞳の、赤が、ゆらゆら揺れているように見えた。
「レイジ…」
「おは、よ」
にっこりと、微笑む頬。
緩んだ表情に、心臓が跳ねた。
(ッ、)
伏せた瞳を、のろのろ上げれば、額にチュッとキスを落とされた。
「なっ…!」
「へへ、おはよーの挨拶だよ」
なんて、無邪気な顔で答えて、嬉しそうに笑うその表情。
とても、満たされていく自分を感じて、アイドは更に頬を紅色に染める。
「…は、よ…」
零れた声は、小さかった。
でも、大好きな貴方が傍にいてくれるだけで、捨てずに、見放さずに、傍にいてくれるという事実だけで、心の中は一杯一杯。

本当に、夢のような瞬間に、心はどんどんと満たされていく。
あんな、悪夢みたいな、時間を過ごし絶対的に嫌われてしまうものだと思っていたのに、レイジは捨てなかった。
嫌いだとも言わず、優しく手を伸ばしてくれた。
抱き締めて、「好きだ」と囁いてくれた。
どれだけ、その心に救われただろうか。
その心に感謝しても、仕切れない。
一緒にいられる事に、こんなにも幸福を感じたことは、今までの人生の中で、きっとこの人が。


最初で、最後だと、思う…








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