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□血の鎖 第九章
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「じゃぁな!」
「おう、またな。」
別れの挨拶を交わせば、今まで漂っていた雰囲気もどこか緩和された気がした。
「じゃぁな、ジェルリ」
「ぁ、うん。またな」
少し元気のないジェルリに違和感を覚え、「どうかしたのか」と訊ねれば、彼は首を思い切り横に振って、笑みを浮かべた。
それは、何処となくいつもと違う。
だが、そんな彼の様子に、気がつけるものはいなかった。
「いや。昨日少し寝つきが悪かっただけなんだ」
そう言われてしまえば、そうにしか見えないから。
「そうか?」
心配したように訊ねるアイドを見て、「ぁぁ」と小さく頷いた。
(ごめん…)
痛む胸が、仕切りに嘆く。
「また、な」
見送りの言葉を漏らせば、「あぁ」と言って彼は踵を返した。
その後ろを、レイジと…そして、ダリッシュが追う。
ぐっと、胸が痛んだ。
このままに、していいのかと、心が叫ぶ。
友ならば、告げねばならないことがあるのではないかと。
昨日のこと、告げねばならないのではないか、と思った。
だから。
「アイド!」
ふと、彼の名前を呼んでいた。
アイドは足を止め、こちらを振り返る。
風に靡く、髪の間からこちらを不思議そうに見ていた。
自分の声が、裏返った気がしたが、其れよりも何よりも。
アイドの手前で自分を振り返った、ダリッシュの視線が言葉を飲み込ませてしまった。
刺す様な、視線。
睨んでいるわけではないのに、感じる威圧感に、ジェルリの心は凍る。
昨日の、出来事が脳裏に蘇る。
『貴方の願い…』
ドクン、と心臓が脈打った。
『貴方の望み…』
身体が、小刻みに震えた。
『知ってるんですよ』
あの男の言葉が、酷く鮮明に…
『ジェルリ・ヴァン・シャード…』
響くような気がして。
『 』
息苦しい。
ジェルリは、何も言えないまま、振り返ったアイドに、こう告げる。
「気を、つけて」
と、だけ。
彼は笑って、駅のホームへと消えた。
その後ろを、狡猾な悪魔が追うのを見て、心が痛んだ。
でも、いえない。
言えなかった。
自分は、なんて。
浅ましい生き物だろうか。
友を見捨てる、なんて…
それでも。
それでも、叶えたい望みがあって。
それを、知られたから。
今は、口を閉ざすほかなかったのだ。
例え、罵られようとも。
例え、恨まれようとも。
可能性を提示されたら、逸れに縋るほかないのだ。
叶えたい願いがある。
叶えたい望みがある。
だから。
ごめん。
ごめん、アイド…
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