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□血の鎖 第九章
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明るい日差し。
鳥の囀る声を聞いて、彼は目を覚ます。
目覚めは、最悪だった。
とても、最悪。

重い、顔。
重い溜め息を付いて、ジェルリは起床した。
隣のベッドでは、まだラオがすやすやと寝息を立てていて。
ジェルリは、また溜め息をついた。
そして、昨晩のことを思い出す。
あの男。
ダリッシュの囁いた言葉。
其れを思い出すと、酷く心が揺れた。
何故、あの男が『それ』を知っているのか。
何故、あの男が『それ』を告げてきたのか。

「なにを、考えて…っ」

考えれば、考えるだけ訳が判らなくなってしまう。
何故、あの男は…

俺にあんな事を言ったのか…

「俺にっ…」

どうしろと、言うのだろうか。







+++ 血の鎖 第九章 +++



 ― 第一幕 不言 ―






「じゃぁ、ねッ…!」
瞳に涙を一杯に溜め、アイドの手を握り締める男が一人。
ラオは、愛しい彼が今日旅立つと聞いて、泣いているらしい。
「な、泣くなよ…」
今生の別れでもないというのに、と内心思いながらも、この手を解けないのは、やはりこの男がレイジに似ているからだろうか。
「いつまでも、握るな〜!」
「うっさいやい!俺は、本当は連れて帰りたいと思ってるんだぞ〜!」
などと、更に涙を溜めて泣くラオと、レイジの言い争いが上で続き、アイドはそろそろと身を引いた。
一体、いつに為ればこの言い争いを止めることが出来るのだろうかと、溜め息をついてしまいそうになる。
「そろそろ行きませんと、明日の到着は無理になってしまいますよ…?」
ふと、後ろでそんな声がして、アイドはダリッシュを振り返った。
「あぁ、そうだったな」
別れを惜しんでくれるのは嬉しいし、結構な事ではあるが、このままでは列車の時間に遅れてしまう。
ネルヴィアから、セイガンまで列車で迎えるとは行っても、一日は掛かる。
これから乗る列車の時間を逃せば、次にセイガンに向けて発車する列車の時間は、夕方過ぎになってしまう。
まだまだ、開発段階の魔道列車は、台数が少ないがために、どうしても列車と列車の間の時間が空いてしまうのだ。
だから、この時間を逃すわけには行かないのだ。
「レイジ、いい加減にしろって」
「あだっ!!」
思い切り髪の襟足を掴まれて、レイジの首ががくんと折れた。
「ほら、もう時間だろうが」
「え?あ、本当だ」
痛む首を擦りながら、レイジは駅の入り口に掲げられている時計の針を慌てて見る。
「じゃぁ、またな。ジェルリ、ラオ」
「うんっ!また、絶対逢おうね」
ラオは本当に名残惜しそうにアイドの手を握ると、レイジを睨むようにして振り返った。









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