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□血の鎖 第八章
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雨が、降る。
冷たい雨が、降る。
いつだって、そうだ。

こうやって、雨が…

苦しい事や悲しい事を、洗い流してくれればいいのにと、思う。

この思いと一緒に、流れていけばいいのにと…思うんだ。







 +++ 血の鎖 第八章 ++++



― 第一幕 悲哀 ―







「痛いッ…痛いッ…!」
モルダネヒネヒトを打たれたアルバインタインは、地面で転がりながら苦痛を訴えていた。
アイドは、彼女の亡骸の横に座り込んだまま震える肩を止められずにいた。
レイジは、アイドをそっとしたまま、アルバインタインを振り返る。
フュームが、まさかあれを彼に打つとは、思っても見なかった。
それだけ、あの男が赦せなかったのか。
レイジは、アルバインタインの方に歩みを寄せた。
「痛い…ッ…助けて、くれっ…」
「ッ…」
こんな、男のために、フュームが命を失くしてしまったのかと思ったら、急に怒りがこみ上げてきた。
こんな、男。
いっそ自分の手で、止めを…。
身体の表面に浮き上がる亀裂から、血を溢れ出しながら、全身に走る痛みから逃れようと悶え苦しむアルバインタインを見ながら、レイジは唇を噛んだ。
こんな男、死んだとしても、誰も悲しまないだろう。
なら、この手を汚して、俺が。
そう、思えた。
フュームを死に至らしめ、彼女の生き様を無様と罵った、男。
人工性フィロッドを、物のように扱って、自分の手足として扱っていた男。
こんな、男…
ぐっと、握り締めた拳。
殺してやりたいと、こんなにも強く思ったことは、ない。
だが、この男を殺しても、フュームは戻ってこない。
「レイ…ジ…」
ふと、名前を呼ばれて、レイジは振り返る。
涙でぼろぼろになった、愛しい彼が、苦しそうにしながら、こちらに歩み寄って来ていた。
動かない足を引きずって。
きっと、彼も。
同じ気持ちなのだろう。
この苦しさは、きっと一生忘れられないものだ。
例え、この男を殺しても、晴れる事はないだろう。
ないのだ。
決して。
この男と、フュームの命を、同じと考えることなど出来ない。

レイジは、アイドの下に駆け寄って。
ぎゅっと、身体を抱きしめた。
「…だめだ。」
「どうして…っ」
「だめなんだ、殺しちゃッ!」
苦しさに負けて、殺してはいけない。
フュームの命はこんな男と対等ではない。
この男を殺しても、きっとフュームは喜ばない。
レイジはぎゅっと、震える小さな身体を抱きしめた。
だめなんだ、と。
何度も言い聞かせながら。









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