SHORT
□奇跡の花
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「いーの。幹」
「………ぇ?」
「園浦、追い掛けなくて、いーの……?」
「莉子…」
「園浦……なんか、変だったよ。支えてあげなくて、いーの……?」
そんな会話が、俺の去ったカラオケルームであったこと。
俺は知らない。
*
花時計のある広場近くで、俺の足は不意に止まる。
なんせ、ここはさっき要が言っていた噂のある広場。
意外と、人の姿が多くて驚いた。
12時半過ぎてるのに…
よく、やる。
寒さにかじかんだ掌を握り締めて、俺はふらふらと花時計の前に立った。
ここで、
愛を誓う。
なんて、ロマンチックだろうか。
思考回路が少し乙女化し始めてる気はするが、敢えて今は気にしないでおこう。
とにかく、そんな噂を信じて、今いる人達は恋人同士の語らいをしている。
いちゃこきやがって。
公然でキスすんな…!
他人の幸せほど、今の自分に痛いものはない。
……幹斗も、
いつか、こうして、誰かと共に、俺の元を去っていく。
いや。
元々俺のもんじゃないけどさ。
きっと、泣くよな。
俺……
大学、県外にしようかな…やっぱり。
幹斗と、少しでも離れたいし。
全寮制の、少し遠い学校に、行こうかな。
じゃないと、俺はきっとおかしくなる。
幹斗に、少しでも女の気配なんかしたら、俺はその女を、傷つけるかもしれない。
それは、幹斗に迷惑が掛かるし、親にだって、迷惑がかかること。
俺は自分を押さえ込む自信が、ないんだ。
…………ぱたっ。
不意に、暖かなものが頬を流れ落ちたのが判った。
俺…
なに、泣いてんだろ。
悲しくなるたび、泣いていたら
苦しくなるたび、泣いていたら
キリがないのに。
それでも。
胸に残る、痛みが、
胸を締め付けるんだ。
幹斗を諦め切れない自分が、
自分を苦しめ続ける。
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