SHORT

□奇跡の花
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「いーの。幹」
「………ぇ?」
「園浦、追い掛けなくて、いーの……?」

「莉子…」
「園浦……なんか、変だったよ。支えてあげなくて、いーの……?」



そんな会話が、俺の去ったカラオケルームであったこと。
俺は知らない。






花時計のある広場近くで、俺の足は不意に止まる。
なんせ、ここはさっき要が言っていた噂のある広場。

意外と、人の姿が多くて驚いた。


12時半過ぎてるのに…
よく、やる。

寒さにかじかんだ掌を握り締めて、俺はふらふらと花時計の前に立った。

ここで、
愛を誓う。


なんて、ロマンチックだろうか。
思考回路が少し乙女化し始めてる気はするが、敢えて今は気にしないでおこう。


とにかく、そんな噂を信じて、今いる人達は恋人同士の語らいをしている。

いちゃこきやがって。
公然でキスすんな…!


他人の幸せほど、今の自分に痛いものはない。

……幹斗も、
いつか、こうして、誰かと共に、俺の元を去っていく。


いや。
元々俺のもんじゃないけどさ。

きっと、泣くよな。
俺……


大学、県外にしようかな…やっぱり。
幹斗と、少しでも離れたいし。
全寮制の、少し遠い学校に、行こうかな。

じゃないと、俺はきっとおかしくなる。
幹斗に、少しでも女の気配なんかしたら、俺はその女を、傷つけるかもしれない。


それは、幹斗に迷惑が掛かるし、親にだって、迷惑がかかること。
俺は自分を押さえ込む自信が、ないんだ。



…………ぱたっ。


不意に、暖かなものが頬を流れ落ちたのが判った。


俺…
なに、泣いてんだろ。


悲しくなるたび、泣いていたら
苦しくなるたび、泣いていたら
キリがないのに。

それでも。
胸に残る、痛みが、
胸を締め付けるんだ。


幹斗を諦め切れない自分が、
自分を苦しめ続ける。





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