SHORT

□奇跡の花
5ページ/10ページ

行く途中、広場の横を通り過ぎれば、クリスマスツリーがチカチカと点灯していた。

まだ、2日も有るというのに。
なんだ、この人の多さ…
カップルの、多さ…


余計、憂鬱が増す。

「そーいやさ。」

要が言う。

「この花時計の噂、聞いた事あるか?いさき」
「……ぇ?」


俺…?

「知らない…」
「幹斗は?」

首を振る幹斗。
刺すような視線がして、顔を逸らす。

「俺、聞いた事ある」
「莉子が?めっずらしー」
「要が、前自分で言ってた」

莉子はそう言うと、淡々と語り出した。

「この、花時計の前でクリスマスイヴの日…告白した二人は、永遠に結ばれるってやつ」
「莉子、惜しいー!一つ抜けてる」

要は指を鳴らすと、莉子の手を握った。

「こーして、互いに見つめ合って言うと、叶うんだって」
「要、近い」

莉子は要の顎を押し返しながら言う。
いいなぁー…


俺も、普通の親友がしたい。
叶わない恋なら、忘れたい。


だけど、期待する。



いつか、今の話のように、ロマンチックなシチュエーションで、幹斗と…


なんて、
都合の良い妄想だけが駆け抜けていく。

いまさっき、あれだけ拒絶の意志を見せ付けておいて。
よく、言うぜ…俺。




結局。
その後のカラオケじゃ、気晴らしなんか出来なくて。
少し、気まずい空気の中、幹斗との距離だけが埋まらなかった。



……はぁ。
俺は他人に迷惑をかけたくないのに。

ごめん、要。
ごめん、莉子。



やっぱり、俺がいると空気が重い。

だから…


「要、莉子。ごめん。俺、帰るわ」

深夜の12時を少し回った頃。
俺はそう言った。

「…え、もうか…?」
「園浦、用事?」

「うん。今週、門限早いの忘れてた」


嘘をついて、
要に、ありがとうを告げた。

本当は、気晴らしなんか出来なかったけど。
俺のために、気を遣ってくれた要や莉子に悪くて。

そのあとに、小さく謝った。


幹斗とは、顔も合わせづらくて
目も合わせない侭、「じゃ…」とだけ告げて部屋を出る。
いろんな部屋に、若いカップルが見える。
いいな……

また、過ぎる期待。
まだ、諦められない自分への苦々しい気持ち。


こんなに辛い恋なら、
何故与えたんですか…神様。



「いらなかったのに…」

出逢いも、
恋心も、
なにもかも、いらなかった。


ねぇ、どうして…?
神様は、どうして俺に、意地悪なのさ……。


問い掛けても出ない答え。
八つ当たりだって、判ってる。
だけど。


だけど………




.
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ