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□血の鎖 第二章
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夕方。
大通りに面した宿屋に、二人の姿はあった。
あれから、色々な店や人を当たり情報を集めたが、特にこれといったものはなく、二人は諦めて宿を取った。
「…で、どうして一緒の部屋なんだ」
「そりゃ、一部屋しか空きがないって言われたからだろ?」
言いながら、レイジは荷物の整理をしている。
二部屋取るつもりで居た、アイドは納得がいかないとばかりに顔をしかめる。
「嫌じゃ、ねーのか」
「なにが?」
アイドの質問に、手を止めることなく背中越しに答えを返した。
「…俺と一緒に居ることがだよ」
「…全然?」
ようやく、振り向いたレイジの表情はいつもと同じく笑顔を湛えている。
アイドはそれに、一瞬眼を見開いた。
なにせ、昼間には「まだ信用なんかしていない」と、面と向かって告げているのだ。
普通なら、顔を合わせること自体嫌がるはずなのに、レイジからはそんな様子は全く感じられなかった。
「俺は、別に構わないよ」
「え?」
「アイドに、信用されてなくても全然構わない」
ようやく、荷物の整理が終わったのか、鞄のふたを閉めレイジは立ち上がる。
視線が、ベッドに腰掛けていたアイドに降った。
「いつか、信用してもらえるようになるまで…俺はお前の傍を離れない」
「なっ…//」
「アイドが嫌がっても、俺はずっと付いて行くつもりだ」
にっこりと笑顔をつくり、レイジはそう告げると踵を返した。
「シャワー、先に浴びてくるな」
言うと、そのままシャワールームへと足を進め、パタンとその扉を小さく閉めた。
アイドはそれを見送り、暫く驚いたようにレイジの入っていったシャワー室を見つめていたが、やがてその頬が薄く桃色に染まった。
「まったく…」
言いながら、彼は身体をベッドに沈める。
天井を見つめ、暫く無言で居たが、やがてその頬が弛んでいるのに気づく。
少しずつ。
だけど、確実に。
彼の中での、レイジの存在が大きくなっている。
だが、アイドは、口元を覆うと首を横に振った。
信用などしない。
しないのだと、もう一度自分に言い聞かせる。
誰だって。
何だって。
いつも、裏切り
裏切られ、生きてきたのだ。
「あんな、馬鹿…」
今まで居なかった。
何をするでもなく、ただ隣に居て、馬鹿みたいに笑って、馬鹿みたいに構ってくる。
お人好し。
そのくせ、人のことには一生懸命になって、挙句離れやしないときた。
「かなわねーよな」
今まで居なかった。
自分の傍に、打算なく居たものなど。
そして、畏怖すら感じないものなど。
自分を、同等かもしくはそれ以下の、子供として扱うものなど、いなかったのだ。
「…構わない、か」
レイジの言葉を、反復する。
身体を起こし、目線をシャワー室に向けた。
「本当、お前は馬鹿だな、レイジ」
本人が居ないところで、人知れず呼んだ名前に、どれだけの意味が詰まっているかなど、アイド自身もこの時はまだ、知る由もない。





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