LONG

□血の鎖 第一章
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「ぁ、ぁ…っ…やめてぇ…」
くぐもった女性の声。
それは、官能に満ちた声でもあった。
女性の足を大きく開かせ、その股の間に、地を這うようにして顔を埋めている男が一人。
その周りには、囲うように仲間と思われる男たちが数人いた。
(まったく…)
アイドはその様子を木陰からひっそりと見つめると、大きく溜め息をつく。
(ここは、一応公道だぜ?迷惑だっつーの)
そう思いもう一度、そちらの方に眼を向けた。
すると、どうだろう。
男に慰めものにされている女性と目があってしまったのだ。
「…たす…けて…」
振り絞るように出された助けを求める声は、確かにアイドに向けられたものだった。
正直、面倒くさい。
彼はそう思った。
別に自分は正義の味方ではないし、助ける義理もなかった。
だが、その光景があまりにも癇に障ったのも、また事実だった。
その女が、まるで夢の中の自分のようで、何だかとても憤りを感じたのだ。
「オイ」
気がつけば、アイドはその男に声を掛けていた。
男は女から顔を離すと、「あ?」と言ってこちらを振り向く。
もちろん仲間と思わしき連中も。
「なんだ…?お前」
男は眉を寄せてアイドを睨む。
それもそうだろう。
折角の楽しみの最中に邪魔者が現れれば、誰だって腹が立つ。
男はアイドの身体を隅々まで見回した。
「子供が何の用だ…?」
男が問う。
アイドは溜め息をついて、カタカタと震える男の後ろの女を見た。
「別に助ける義理はないけど…なんか、すげぇムカつくからやめて欲しくてさ」
にこっと、少年らしい微笑を零すが、その言葉にはどこか棘があった。
その言葉に、男達は不快をあらわにする。
「何だと、てめぇ!?」
「むかつくガキだ!誰に口聞いてんのか、判ってんのか!?」
口々に暴言を吐く男達。
普通の子供なら恐れをなして逃げるところだろうが、アイドはケロッとして男達を見回した。
そして、口端を少し上げて可笑しそうにしたのだ。
「ふぅん?今、俺…すっげぇ不機嫌なんだよね?だから…ちょっと相手してあげるよ」
クスクス笑うアイドに、堪忍袋の緒が切れた男達は武器をその手に取り出す。
「少し、いい気になりすぎだ、ガキ。オイ、お前等。少し痛い目にあわせてやれ」
中心核の男の命を受けた男達は、面白そうに笑うとアイドに向かって走り出した。
「ひぃ、ふぅ、みぃ…ふぅん?たった10人?俺の相手には、役不足かな?」
笑うアイドに、一人の男が剣を振りかぶる。
振り下ろした剣先が、彼を捉えたかと思ったが、空気を切っただけだった。
「遅い遅い」
「な!?」
後ろから聞えてくるアイドの声に、男は眼を見開く。
いつの間に、自分の後ろに移動したのか、と。
「なに驚いた顔してんだよ?」
くつくつと、笑うアイド。
よく見ると、彼の足には何かさっきまではなかった『ブーツ』が履かれている。
いや、ブーツと呼ぶには、少々装飾が多く、なにやら風を纏っている。
「な、なんだ…てめぇ…」
「運が悪かったね…俺から逃げれるわけ、ないよ」
トン…
地を蹴る音がしたかと思えば、風の切る音がして次々に男達が倒れていく。
その姿は、目には止まらない。
「な…なんだっ!?」
とうとう、最後の一人になってしまった手下は辺りを脅威の目で見回した。
どこから、来る!?
だが、どんなに警戒しても、アイドの姿を見つけることは出来ない。
風のような速さ。
一体、どうして?
男が、そう考えた瞬間。
風の切る音が、後ろで聞こえた。
「“疾風奏でる両脚”」
はっとして、振り返る。
だが、既に遅かった。
男の身体は、アイドの蹴りによって地に伏せた。
その瞬間。
その男の意識は、既に落ちてしまっていた。




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