LONG
□血の鎖 第一章
2ページ/34ページ
その昔。
人々は大きな力を得んとした。
欲するが故に、非道なことを繰り返し試し、人はあるものを作り上げた。
それが、『人工性フィロッド』と呼ばれるもの。
其の物達は、通常の人間・フィロッドより大いなる力を持っている。
だがその運命は悲しく。
ある工場の爆発事件を機に、製造は中止された。
今この世に残る人工性フィロッドの数は、数える程度にしかいないという…
『そうだ…ちゃんと、舐めなさい…』
『ん…ぅぁ…』
口の中に広がるのは、異物。
大きくて、硬くて熱い。
男性特有の生殖器。
闇に掠れた声と、唇が少年の身体を引き寄せる。
『っあぁ…』
『お前は、どこにいても…ずっと私のものだ』
塞がれた唇。
大きなその腕の中で、少年は弄ばれ快楽を与えられる。
まさに、その時。
その一瞬が近づいてきたのを感じた辺りで、ぱちりと少年は瞳を開けた。
大きな、叫び声と共に。
「うわぁああぁっ!!」
がばりと、身を起こすとそこには昨日から泊まっている宿屋の一室が見えた。
「なんだ…夢か…」
夢でよかった、と少年は溜め息をついた。
少年の名前はアイ・ド・ウィリー・ゼロ。
フィロッドと呼ばれる、特殊な能力を持っている少年である。
年は14。
髪は銀色で、長い髪は背中の真ん中ほどまであり、軽く跳ね返っている。
瞳は両の目で色が違い、左は血を思わせるような紅い瞳。
右は青天の空のような碧眼。
彼は荒く高鳴った胸を押さえながら、その瞳を閉じると、肩で息をしながら呼吸を整える。
(今の夢…昔の夢だな)
ごほっ、と咳を払いベッドから起き上がった。
ぎしっと、ベッドが軋みアイドがその場から起き上がったことを示した。
あの夢は、彼の昔の夢。
それも、一番最悪な夢。
通算すると、160回目のものだった。
「記憶がないと、気持ち悪ぃもんだな…」
アイドは頭を抱えてそう呟いた。
そう、彼…実は昔の記憶がない。
記憶、と呼べるものを思い出せるのは5年ほど前からのものだけ。
それまで、何処で何をしていたのか
自分は一体何者なのか
それすら、判らない。
「つーか!!例え、記憶があったって今のは気持ちのいいもんじゃねーぞ!!」
自分で自分に突っ込みを入れると、アイドは机に両の手を突いた。
(あの夢を見た日は決まって悪いことがおこんだよな…)
眉を潜め、鬱陶しそうにアイドは前髪を掻き揚げた。
「まぁ、考えていても仕方ないし…出掛けるとしますか!」
アイドは元気を振り絞って声を上げると、服を着替え部屋を後にした。
+++血の鎖 ―第一章―
― 第一幕 出逢 ―
宿屋を後にしたアイドは、街に続く林の中を一人歩いていた。
小鳥のさえずりが響き、爽やかな風が頬をなでた。
その気持ちよさにアイドの頬もどこか緩む。
と、その時。
なにかが、彼の耳に届いた。
最初は、風の唸り声かと思ったが、どうやらそうではない。
アイドはゆっくりと、瞳を閉じた。
風に乗って、その声は聞こえてくる。
「……っ、ぁ…ゃ…めて…」
はっきりと耳に届いた声は、どうやら女性のもののようだった。
(…あっちか。)
アイドは前方を見据えると、ゆっくりとその方向へと歩みを進めたのである。
.