LONG

□血の鎖 第七章
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そうして、もう一度イルミナーゼの身辺調査を行った。
これと言って不自然な箇所もなく、尾行部隊からの調査報告も、特に変わった様子無し、とのことだった。
可能性は捨てきれないが、それでもこの能力は捨てがたい。
ケインは、ダリッシュとも相談しあい(これは余り意味を成さなかったが)彼の起用を決定した訳だ。

「では、手始めに…このことについての情報を集めて欲しい」
「…俺の腕試しってことか?」
「まぁ、そういうことだ」
「なるほど…」
イルミナーゼは、ケインから書類を受け取ると、その内容に目を通した。
内容は、ある研究チームの所在と、研究内容。
それが、彼等にとってどういう意味を持っているかなんてことは、聞く必要はない。
どうせ、聞いても答えないだろうし、まず詮索しない事が、この仕事を長く続けるためのコツだと、彼は知っているから。
「…期限は五日。それまでに、お前が完璧だと言う情報を集めろ。」
「…わかった。」
「では、また来る…その仕事の成果如何によっては、お前の処遇も変わると思え」
踵を返しながら、ケインが言えば、それをイルミナーゼが引き止める。
「いや。来る必要はない」
「なに?」
ケインは、その言葉に振り返り、足を止めた。
イルミナーゼは、椅子から立ち上がると、壁に貼られた紙を迷う事無く数枚剥ぎ取り、ケインに突き出した。
「五日も要らない。今この場で提供しよう」
「なん、だと…?」
余りの事に驚き、ケインはイルミナーゼの顔をまじまじと見つめた。
その眼は、確信の篭った強い光を宿している。
「俺が今までにこの件について集めた情報、全てだ。これが、俺の完璧だと思う、情報。これ以上調べる必要性はない」
きっぱりと言い張るイルミナーゼに、迷いはない。
それは、自分の腕を信じているからこそ、出る発言。
ケインは、この男の定評を思い出した。
「…成程。噂に違わぬ、自信家だな…」
様々に噂される彼。
アイドが、贔屓にしていた意味も判ると言うもの。
「いいだろう。気に入った。お前を、俺達の拠点に、案内してやる」
ケインは、イルミナーゼからその情報の書かれた紙を勢い良く奪い取ると、不適に笑う。
こんな男は初めてだ。
敵に回せば厄介だろうが、味方に引き込めば、これほど心強いものはない。
ケインは、そう感じた。
(いいさ…密偵ならば、それでも。)
怪しい動きがあれば、その時点で殺せばいい。
自分達はそれだけの力を持っているから。
それに。
逆に、マザーについての情報なども、訊きだせるかもしれない。
ケインは、イルミナーゼを引き連れて、その場を去った。

大都市、ファグローブの都の地下に張り巡らせられた、その排水場跡を…







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