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□血の鎖 第七章
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そいつ等から、きちんとした通達が来たのは、あの接触から一週間が経ったころだった。
男二人を引き連れて、物々しい事この上ない。
「久し振りだな…」
「よく、此処が判ったものだねぇ」
イルミナーゼはパソコンに向かいながら、目線だけをそちらに移した。
「辺鄙な場所を好む、とは聞いていたが…まさか、こんな場所に拠点を構えているとはな…」
苦労した。
と、吐き捨てるように言うケインを、イルミナーゼはくつくつと笑いながら見つめた。
(苦労なんてしてねーだろ。)
嘘が丸見えで、笑えてしまったのだ。
何故なら、ここ数日、彼はつけられていたのを知っているから。
身辺調査だろう。
疑われているのは知っている。
だから、きちんと身辺の調整はしてある。
滅多な事では、ばれない様に、細工を施してはある。
仕事上、そういう人間との繋がりはあるから。
(さて…どう転ぶか…)
あぐねいているイルミナーゼを振り返り、ケインは鼻で笑うようにして、本日の要件を告げた。

「お前を、起用する事にした。」




血の鎖

+++第七章+++


 ― 第一幕 潜入 ―



一週間前。

「イルミナーゼ・コア・バルドッシュ。年齢は25。何処から嗅ぎつけたか…我々の事を、探っている様子です」
暗い、部屋の中。
ケインは、イルミナーゼについての情報を、ユリウスに聞かせるべく、報告書を開いた。
「そうか…」
ユリウスは聞いているのかいないのか、顔をそちらに向けることもなく、ベッドの上に寝そべる少年から目を離さず答える。
「…どうしますか」
「…ふむ」
「顧客の名前には、ゼロの…マザーの名前もありましたが…」
「スパイの可能性を、考えているのか?」
「はい…」
ケインは、小さく目線を泳がし、頷いた。
ユリウスは、そんなケインを横目で見た後、少年の頭を軽く撫でる。
少年は動く事もなく、目をうっすらと開けたまま。
ぴくりとも、しない。
「…年に数回、マザーも利用していたようですが、此処一年ほどは全く逢った形跡はありません。」
「…」
「可能性はないとは言い切れませんが、腕は確かです。情報網も、大きいようですし…身寄りもありません」
イルミナーゼは、小さい頃に両親をなくし、親戚の伯母に引き取られた。
だが、その伯母も彼が15の時に死別し、それ以来彼の親戚はいないと言う。
「身寄りがないので、後々の処理は楽かとは思いますが…」
歯切れの悪いケインに、ユリウスは笑いながら告げる。
「…お前に任せる」
と。
「…私にとって、それが有益であると判断するなら引き込めばいい。そうでないのなら、切り捨てろ。私の指示をいちいち仰ぐ必要なない」
そう言いながら、彼はぎゅっと、横たわる少年の首を絞めた。
ぎりぎりと、その細い首筋に指が食い込んでいく。
「…わかりました…」
ぶつり、と切れた皮膚の間から、鮮血が流れ出たのが見えた。
息がないと判ってはいるが、余り気持ちのいいものではない。
ケインはその少年から目線を外す。
だが、ユリウスにとっては、その血は恍惚なもので。
「ん…いい色だ」
彼は悦に染まりながら、その少年の喉下に噛み付いた。
血が、ぽたぽたと、ベッドの上に滴り、シーツに赤い染みを作っていく。
「…では…」
そう言って踵を返した、彼の後ろで、ユリウスはにやりと笑った。
「ケイン」
「はい…」

「次の餌の、準備をしておいてくれ」

ケインは、「判りました」とだけ告げて、扉を閉めた。
餌…
餌の準備。
それは、彼に捧げる、少年の事だ。
「一体…いつまで、貴方は…」
こみ上げて来る苦々しい思い。
期待なんてしてないのに、それでも苦しい。
(感傷に、浸ってる場合じゃないな…)
ケインは頭を振ると、のろのろと歩き始める。
どうするのか、決めなくてはいけないから。





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