LONG

□血の鎖 第六章
2ページ/32ページ


「アイド様ー!レイジ様ー!」
緑の続く道の先を走り、振り返る少女。
楽しそうに笑い、二人を呼ぶ彼女は、あの日…そう、あのファンファールで一緒に行動をする事になった、愛玩用人工性ペットの少女。
フュームで、ある。
「こっちですー!」
早く、早く、と手を招き、笑顔を絶やさない彼女。
ファンファールを出て、2週間。
彼女は何と、ここまで話が出来るようになっていた。
実は彼女の言語障害。
レイジの、治癒能力で治療が可能だったのだ。
先天性のものではなく、何かの衝撃で神経を損傷したものだった。
それが判ったのは、今から一週間前。
偶然にも同じ宿屋に泊まった精神科外科医の医者が彼女の様子を気にかけてくれて、発覚した。
医者の話によると、フュームの状態は、頭を強打した事によるものではないかと、診断された。
しかし、その場では医者の話を聞く事しかできず、それが事実がどうかは判らなかった。
しかし、ダメ元で治癒を行ってみようかと試したところ、これが見事に成功。
次の日。
彼女の言葉の切れが、よくなった。
それから、毎日のように治癒を続けてみた所、ここまで回復したのだ。

そう。
彼女は、欠陥品などではなかった。
機能は正常だったのだ…
あの、彼女を見下した者達に今の、この彼女を、見せつけてやりたい気分になる。




血の鎖

+++第六章+++


  ― 第一幕 闇賞 ― 




「アイド様ー?レイジ様ー?遅いですー」
「フューム、もうちょっとゆっくり行こうぜ?」
苦笑しながら、レイジが言えば、フュームの足が止まる。
「でも、あと12km位行けば、街が見えてますよー?」
「でも、今日中に着けばいいし…ねぇ、アイド?」
「そうだな。フューム、もう少しゆっくりでも良くないか?」
訊ねれば、彼女は、少し考えて「はい」と答える。
こうやって、少しずつ彼女は色んなことを覚えているようだ。
感情も、豊かになって、言葉も達者になっていく。
「にしても、フュームは眼がいいなぁ…」
視野の広い街道ではあるが、そんなに先の街の姿など、まだまだ見えては来ない。
「あの辺りにありますよー」
前を見据え、奥のほうを指で指し示すが、普通の人間にはやはり見えないのが実情だ。
「私達は、一概に眼が良く造られてるんです」
「へぇ?」
「私達は、護衛目的も兼ねられてるから」
愛玩用人工性ペットの使用目的は、元々は戦闘用。
だが、使い方が富裕層では違い、趣味嗜好に於ける用途が多いの事実。
悲しいかな、富裕層における趣味は一概にして、彼等のような人工生命体を奴隷のように扱うのだ。
それを思うと、彼等のような存在の事を悲しく感じる。
だが、彼女自身はそんな事微塵も感じていない様子だ。
生まれてきた事に精一杯に感謝し、そして生きていこうとしている。
特に彼女は、その思いが強い。
フュームは、アイドに助けてもらった存在。
だから、彼のために、生きようと思っているのだ。
それは、インプリンティングだけの問題ではなく、彼女自身の感謝の表れ。
フュームは、恩を返したいようなのだ。
生まれた感情。
教えてもらった感情に、感謝があるから。




.
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ