LONG

□血の鎖 第五章
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「やぁ、アイド」

そう、声を掛けようとしたレイジに向かって、最初に飛び出したアイドの言葉。

「この、大馬鹿野郎!!」

余りに大きな怒声に、レイジは一瞬固まった。
はぁ、はぁと肩で荒い息を零し、アイドは潤んだ瞳を拭う。
「アイ…ド?」
「なんで…っ、なんで、あんな無茶なことしやがった…っ!」
いくら、目元を拭っても、込み上げて来る涙。
レイジが怪我をして、床に臥してから、この3日。
気が気ではなった。
もう、目を開けてくれないのではないか。
もう、喋ってくれないのではないかと、最悪の結果ばかりが頭を過ぎった。
それでも、息をして、寝息を立てて、たまに身じろぐ彼を見るたび、不安は少しだけ消えた。
でも。
いつもの笑みを見れないのは、やっぱり辛かった。
傷も、中々癒えてはくれないのが、更に辛くて。
涙が溢れてくるのは、自然なことだった。
「ご、ごめん…」
何度も目元を拭う小さな少年に、レイジは申し訳なさそうに謝る。
腕を上げて、彼の目元を拭ってあげたいのに、力が入らない。
「死んだかと…思ったんだぞっ…」
「ごめん…」
「本気で…死んだかと…っ」
とうとう頬を流れ落ちたしずくに、ぐっと胸が締め付けられる気がした。
上がらない腕に、力を込めて、彼の目元にのろのろと指を伸ばす。
すっと、指の先でその滴を拭ってやれば、指先に冷たい感触がした。
「俺のために、泣いてくれるの…?」
「っ…誰が…っ」
泣いてなんかないっ。
鼻を啜り、少しだけ目を吊り上げて言う彼。
ぷいっと顔を逸らし、赤くなった目元を乱暴に拭えば、少しだけレイジの顔に笑みが零れた。
「…でも」
「?」
「本当、アイドが無事でよかったよ」
「っ、馬鹿が…」
「うん、知ってる」
血の気のない顔で笑えば、眉を寄せたアイドの手が伸びてくる。
ふと、頬に触れた手が、とても暖かくてレイジは目を細めた。
だが、アイドは更に眉を寄せ、辛そうに呟く。
「…冷たいぞ」
「あはは…ごめんね」
苦笑するレイジの頬から手を引き、すっくとその場にアイドは立ち上がった。
「腹、減ってないか?」
「え?う、うん…空いた、かも…」
「3日も何も食ってねぇんだ…なんか、作ってやるから、それ食って…早く、元気になれ」
「…ぇ?」
アイドの言葉に驚くレイジを余所に、アイドは備え付けの台所へと足早に向かう。
レイジが眠っている間に買ったのであろう材料を、茶色い紙袋の中から取り出し、アイドは台所で何かを作り始めた。
トントントンと、軽快な音がしたかと思えば、暫くして何かを煮込む音がし始める。
「えっと…これと、これと…」
拙い声と、何かを探る音。
まさか、こんな光景を見ることが出来るだなんて思いもしなかったレイジは少しだけ嬉しそうに微笑んだ。




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