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□血の鎖 第四章
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「…え?」
いきなりの彼の行動に、思わず眼を見開いて振り返るアイド。
レイジの表情が、どこか切なげに見えた。
「…レイ、ジ?」
「俺のこと、呆れたの?」
「は?」
「ココノであった事件以降、なんかアイド変じゃん」
レイジの言葉に、アイドは一瞬眼を見開き、口を噤む。
その様子に、レジの表情が更に曇ったのを、アイドは見逃さなかった。
しまった。
そう思ったときには、彼が自分に抱きついてきていて。
アイドは、いきなりの事に、身を強張らせた。
「…俺のこと、嫌いになった?」
「ちょ…馬鹿、こ…こんなとこで…っ//」
人の眼が気になるのか、アイドは彼の身体を引き離そうと必死になる。
だが、きつく抱きしめてきた彼の身体は一向に離れる気配を見せない。
「ば…っ、ちょ…も、レイ…っ」
何とか彼の身体を引き離そうと、彼の胸に手を当て、強く押し返したとき、その鐘の音は鳴った。


ゴォォォンッッ――――!!


「!!」
その大きな音に、一瞬二人の身体は離れ、そしてその隙間に勢いよく水の壁が立ち込めた。
「うわっ!!」
「わっ!!」
いきなりのことに二人は、驚き、身を引いた。
間一髪、腕を濡らしただけで済んだレイジは、ホッとため息をつく。
だが、アイドの事を思い出し、顔をあげると、そこには水浸しの彼の姿があった。
どうやら、水の噴射は十数秒だったらしく、水の壁は既にもうない。
代わりにあったのは、仏頂面のアイドの姿。
直前までレイジに拘束されていたためもあって、水の噴射をもろに浴びてしまったらしい。
全身、びしょびしょに濡れてしまっている。
「…っ最悪…」
悪態をつきながら、水の滴る銀の髪を掻き上げる姿はとても情緒的で。
濡れた服が、身体にピッタリとくっつき、体のラインを強調させる。
思いの外細い腰や、引き締まった細身の身体の線が、もろに浮き上がってしまい、レイジの視線はそこに注がれた。
ぽっちりと濡れた服の下から押し上げる胸の突起の存在。
寒さからだろうか。
固くなったソレの存在に気付いてしまい、生唾を呑んでしまう。
だが、次の瞬間には思考を切り替え、レイジはアイドの下に駆け寄った。
「あ、アイド!平気か…っ?」
とりあえず、上着を羽織らせ、周囲の目と自分の目が、彼のそこに注がれないようにした。
「これが、平気に見えたら、重症だな」
深い溜め息と共にアイドは髪の毛を絞る。
長く垂れ下がっていた髪は、含んだ水を吐き出し、整えられた。
服も同じように絞ってやれば、水が滴り落ちていく。
「…これって、仕掛け…?」
「…俺が知るかよ…」
この街には、一人での旅では来た事がない。
これが、仕掛けなのかどうかなど、アイドには判らなかった。
代わりに、その問いに答えたのは二人の様子を見ていた街の人間だった。
「あんた達、アクエイラームは初めてかい?」
「え、あぁ…はい」
今だ、仏頂面で服の水気を取っているアイドの代わりに、レイジが答えると、街の人はクスクス笑いながら「だろうね」と、さも判っていたかのように微笑んだ。
「初めての人間は、大体それに引っ掛かるんだよ」
それ、とは先程の水のこと。
どうやら、レイジの勘は当たったらしい。
話に寄れば、あれは時間に応じて上がる水柱だと言うことだった。
「街の中心にある、水時計と連動しててね。時刻に応じて、時計の短針が指している方向の仕掛けが動くように出来てるんだ」
「なるほど」
水の都ならではの、面白い仕掛けのようだが、慣れない人間にしてみれば、ある意味恐い仕掛けのようだ。
「まぁ、足元と時間に注意を払っていれば、当たることはないから。この街にいる間は、忘れないことだね」
街の人はそれだけを言うと、微笑みながらその場を去る。
豊富な水と、豊かな自然に囲まれたこの街の住民達は、優しい性格のようだ。
レイジはその人を見送ると、アイドの方を振り返った。




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