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□血の鎖 第四章
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「をー!!すっげぇ!!!」
眼前に広がる光景を見ながら、レイジはまるで子供のようにはしゃぎ、叫んだ。
街を一望出来るその場所は、高台の丘にあり、そこからは綺麗な「水の都」が見てとれた。
「うっひゃー…!すっげぇ、綺麗!アイドも、こっち来いよ!」
思いっきり、笑顔を振り撒いて、後ろに佇む相棒に声を掛けると、その相棒は相も変らぬ仏頂面で、彼を睨み返す。
「はぁ…」
いつもなら、ここで口論の一つでも起きるところだが、この暑い日差しの所為もあってか、そんな言葉すら見つからない。
アイドは、彼に腕を引かれるまま彼の隣に立たされ、街を見下ろした。
目の前に広がる、光景は彼が興奮するのも判るほど、美しくて。
思わず「綺麗…」と、呟いてしまうほどだった。




血の鎖

+++第四章+++


  ― 第一幕 水都 ―




その街は、年中水に囲まれ、水の恩恵を一身に受けている、『水都』である。
その名を、「アクエイラーム」と言い、この街は街の周りを水の壁が覆い尽くしている、いわば水の城塞。
街の至るところには、噴水が装備され、それは公園・歩道・住宅に至るまで、街のあちこちで常設されているのである。
歩道の横には、水の流れる小さな用水路があり、街の中心には水時計がセットされている。
暑い日差しが降り注ぐこの環境には、適した街と言えるだろう。
「ここは、確か一年で雨の量が最も多いんだよね」
「あぁ。らしいな。」
「代わりに、今日みたく晴れた日は、すっごく熱いって聞いてたけど、本当だったんだね」
水都は、雨の雨量も多く、だからこそのこの恵まれようかもしれないのだが、代わりに晴れの日との差が激しい。
「まったく…迷惑な話だ…」
「まぁ、まぁ…そう言うなって」
顔を顰めるアイドを宥めながら、レイジは彼の身体を上から下まで見やる。
「…な、何見てる…」
「いや、可愛いなぁ…って」
「っ//なにが…」
「その格好vV」
レイジは語尾にハートマークまでつけて返事を返した。
実は、アイド。
今、上着を脱ぎ、下に着ていたタンクトップ一枚。
加えて、下のズボンが半ズボンと来ていて、レイジには堪らない光景な訳だ。
「こっちも、絶景!」
「煩い!ぶっ飛ばすぞ、てめっ!」
恥ずかしいことばかりを、サラッと言ってくる彼に、アイドの顔は赤らみ、咄嗟に手が上がった。
「わー、わー。暴力反対ー!」
レイジは後退りしながら、両手を挙げ、頬を引きつらせた。
どんな反応が返ってくるかなど、ここ二ヶ月近い間に判っているにも関わらず、彼にちょっかいを掛けてしまうのは、偏に彼の気を引きたいからだ。
そして、そんな彼の企み等は知りもしないが、反応をいつも通りに返してしまうアイド。
いや、実際はいつも通りに振舞って見せているわけではあるが。
自分の気持ちに気づいてしまったときから、彼の心は大きくぐら付いていて、それを隠すために態といつも通りを振舞っているのだ。
「お前は、いつもいつも…っ。冗談も休み休み言え!」
「じょ、冗談じゃないんだけどなぁ…」
「まだ、言うか!」
もう一度振り上げられた拳。
だが、その手は、レイジに降る事はなく、彼の脇に静かに下りた。
「あ、れ?」
「…はぁ、いちいち相手すんの疲れた…俺、先行くから」
「え、え?」
アイドのいつもと違う反応に、レイジは戸惑いながら後ろから付いて行く。
照れ隠しも、度合いを超えると取り返しのつかない行動に出そうで。
アイドは、その前に自ら心を諌めたわけだった。
だが、そんなことはレイジには判らない。
だからこそ、逆に不安なんかが募って。
アイドの手を、パシリと引いてしまったのであった。




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