LONG

□血の鎖 第三章
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街の中では、既にフルフランの事が大きく噂されていた。
突然姿を消した街。
住民。
その全ての全貌が判らない彼らには、あの街を更に『狂町』として、印象付けているに違いない。
彼らの話は、どれも憶測の域を出ないものばかりだった。

「なぁなぁ、フルフラン。とうとう消えたらしいぜ」
「あぁ、訊いたよ。やっぱり、あの街は狂ってたんだよ」
「いやね、恐いわ」
「無くなってくれて清々したよ」

皆、言い分は違えども、そこにあった『厄介』が消えて嬉しそうであった。
悲惨なあの状況を、目の前で目撃していないから、出て来る言葉だと、レイジは眉を潜める。
今まで、目の前にいた、当たり前に動いていた人間が、突如機能を止めて、倒れたら、此処の人たちはどう思うのだろうか。
生きていると、思っていただろうあの人たちも、いきなり自分の身体が冷たくなっていくのを感じてどう思っただろうか。
そのことを考えると、魘されて、苦しくて、吐き気がした。

そう。
自分達には関係ないのだ。
全ての元凶は、あの「ユリウス」なのだ。
そう、言い聞かせたこともあった。
だが、そこに居た人たちを見捨てたことに変わりはなくて。
ただ、直接的に手を加えなかっただけで。
無力だったことに変わりはなかった。
あの時、もっと何か出来ることがあったのではないだろうか。
あの時、アイドを先に逃がして、声を掛ける余裕は本当になかっただろうか。
もっと、状況を分析は出来なかったのか。
もっと、他にも方法があったのではないだろうか。
考えれば考えるほど、気分が落ち込んだ。
辛くなって、震えてきた。
だが、そんなこと、此処の街の人々は知らない。
目の前で見ていたわけじゃないから。
自分達には関係ないから。
彼らは、憶測ばかりで、現実味のない話を続ける。
だが、それを咎めるつもりはない。
咎めなければ、自分たちも咎められはしないから。
「…しっかり、逃げてるよな…これって」
判っていても、己の所為とは思いたくない。
それが、人間だし、それが当たり前だ。
責任は自分にないと思ったほうが、楽だし、「他人事」で通せる。
レイジは、フォークとナイフをテーブルに置き、頭を抱えた。
沢山の命が失われていく瞬間を、目撃した彼。
それに、関わってしまった彼。
レイジは、これからをどうしたらいいのか、頭を悩ませた。
そして、アイドのことにも、その思いを馳せる。
フルフランの消滅の一件で、忘れてしまいそうになる真実。
アイドの、出生の秘密。
人工性フィロッドの「マザー」という、秘密。
その事も、大きく彼の中を揺らす。
取り戻したい記憶の断片。
それは、確かにユリウスにあると、彼だって気づいていたし、ユリウスもそれを示唆していた。
だが、まさか。
あんな事実が出てくるなんて思ってもいなかった。
人工性フィロッド。
それは、人為的に作られたフィロッドのこと。
フィロッドを装備できる人間は、今までは規則的なものはないとされてきた。
親がフィロッドであるからといって、子がフィロッドに絶対なるとは限らない。
また、代々フィロッドが出ない家系であっても、いきなり生まれてくることも、そう珍しいことではなかった。
何の法則も、規則もないフィロッドの誕生。
だが、それを解明し、初めて人工性フィロッドが生まれたのが今から20年ほど前。
その頃は、まだ受精卵の状態であり、それ以上育て上げる方法はまだ見つかっていなかった。
そしてまた、その研究を非難する人間も多く、結局その頃の研究はそれ以上の域を出ることはなかったと言われている。
だが、研究がその数年後に再開されると、今までの研究とは比べ物にならないくらい研究は進展を見せ、とうとう出来上がった人工性フィロッド達。
彼らは、試験管で生まれ、培養液の中で育てられた。
そして、ある程度の大きさまでそこで育てられた後、彼らは商品として売られ、世界中にその存在を認められていくことになる。
だが、彼らは、数年後工場の爆破を機に製造を中止される。
その間に作られた人工性フィロッド達が、その後どうなったかは定かではない。
しかし、彼らの中には虐殺されたり、壊されたりして、既にこの世から去ってしまったものも居ると言う。
そんな彼らに、人権が与えられたのはまだまだ最近のことだ。
フィロッドの製造工場が、爆発された、その記憶が、新しいのと同じように。





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