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□血の鎖 第三章
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ザァァァ…―――

街の外を覆う、雨。
雨音は強く、建物の壁を、道端を、人々を酷く打ち付けた。


その日。
人々は困惑した様子で、サンディアロストアの街の外、空を見上げていた。
突如として、巻き起こった竜巻のような渦。
多くの人がそれを見、そして恐怖した。
その原因。
それは、『狂町』フルフランの街で起きたあの一件だった。
捻じ曲がった空間が正常に戻る時に起きた歪みが、街の外にあった砂を巻き込み、大きくうねりを上げたのだ。
辛くも、その状況下、アイドとレイジはなんとか、このサンディアロストアに帰ってくることが出来た。
しかし、二人の身体は至る所に損傷を来たしており、暫くはこの街で養生を取ることになった。
外は、砂漠の近い街にしては珍しく、大雨が止む事無く、もう既に4日も降り注いでいる。
彼らがフルフランから帰ってきて直ぐ降り出した雨。
まるで、そこにあったものを流しきってしまおうとする様に、雨足は強くなるばかりだった。




血の鎖

+++第三章+++


  ― 第一幕 出発 ―





壁を叩く音。
雨音が、弱さを見せず振り続ける中、彼は虚ろな瞳を窓に向けていた。
あれから。
もう、4日が過ぎた。
沢山の人間が命を落とした、街。
フルフラン。
その町は既に、この世界の何処にもない。
外の時間とは、既に大きく掛離れていたその町の住民達は、既に息絶えていたとはいえ、彼らの目の前で息をし、喋り、動いていた。
だが、それも全て、時限の狭間にあったからこそのこと。
無くなってしまった秩序の中で、彼らは生きることが出来なかった。
しかし、その中には街の住民ではない人間達もいたのだ。
間違えて来てしまい、既に数年を過ごした人間達もあそこにはいた。
それに気がついたのは、この街に逃げてきて、次に眼を覚ましたときだった。
漠然とした喪失感。
街の住民達の噂。
失くしてしまった事実。
それが、痛く、重かった。
レイジはそっと、身体を起こす。
隣のベッドには、横になって寝息を立てている少年の姿。
アイドとは、ここ数日ろくに会話をしていない。
疲れた身体と、精神の安定のため、二人は別々に睡眠を採ったり食事をしていたためであり、そしてまた、アイドが彼と顔を合わしたがらないことが、原因だった。
「…」
沈黙の間。
嫌に大きく聞える、雨音が耳について鬱陶しかった。
「…飯、食ってくる」
起こしたかった様子のレイジだが、彼の耳元で小さく呟いただけで、その場を去っていく。
パタンと閉じたドアの音。
そのドアが全てを閉じた空間の中で、ゆっくりとアイドは瞳を開けた。
無言のまま、彼の去ったドアに視線を遣る。
暫く、ドアの先を見つめていた彼だが、やがて静かにまた瞳を閉じ、布団を自分の上に大きく被せてしまった。





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