SHORT

□黒と白の境界線《製作中》
1ページ/2ページ

この世界には、《ヴィーラ》と呼ばれる魔法が存在する。
ヴィーラは、限られた人に力を与え、時には争いに時には癒やしに使われた。

しかし、世は荒れ混乱が蔓延る中。
ヴィーラの力は脅威とされ、何の罪もない者達がその力を恐れた国家の使者達によって、次々と殺されていった。


時は、それより進むこと24年…――

国家が所有するヴィーラ以外、世の中に存在したヴィーラは殆どが姿を消していた。
人々は漸く訪れた安寧の日々に堕落し、国家に怯え満足とはとても言えない生活を送っている。
世は荒み、人々からは笑顔が消えた。

世界は混沌と、恐怖に支配された物へと変貌を遂げていたのだ………





《黒と白の境界線》




「ゼーラ、エヴェラ…風の申し子よ告げよ…時は儚く、汝に寄り添わん。この掌の内に出でて全てを破壊せよ…!」

ゴッ、と風が唸る。
目の前の岩が持ち上がり、宙に浮いたかと思えば風が空を駆け抜け岩を切り裂いた。
バラバラと辺りに降り注ぐ岩の欠片。
切り裂かれた瞬間の爆風が身体に降り注ぐ。

「うん、絶好調」

にかっと微笑む少年。
年格好からして、15か16歳前後。
名前は、クロウ・ヴァレル。
今この岩を粉砕した張本人だ。
るんるんと嬉しそうに笑うクロウの表情は生き生きとしていた。
そんな彼の頭を容赦ない拳が襲う。

ガッ…!!

「いっ…!?」
突如として頭上に感じた激しい痛み。
クロウは痛みの走る頭を押さえ、キッと後ろを振り返った。

「痛いじゃん!セラっ…!!」
抗議の言葉と二度目の拳が重なる。
「うっせぇっ…!」
ゴツンッ、と今度はさっきよりも数段力の籠もった一撃が容赦なくクロウの頭上に振り下げられた。

「いったぁぁぁ…!」

よほどの力で殴られたのだろう。
クロウは転げ回るように地面にのたうった。

「あれだけ、力は使うなって言っただろ、クロウ!」

セラと呼ばれた少年は、ギロリとその鋭い眼光をクロウに向ける。
その迫力にクロウはまるで子犬みたいに縮こまるしかなかった。

セラ。
彼はセラフィス・ティグス。
クロウと共に旅をする謂わば仲間だ。
そして二人は、先に述べたヴィーラである。
彼等は、「魔女狩り」と呼ばれるあの大虐殺を免れた数少ない生き残り。

「頼むから自重しろっ!誰かに見られたら…」
辺りを気にするセラを余所に、クロウは特に気にする様子もない。

ヴィーラは、現在では希少価値がついているため、悪い奴に見つかれば、人身売買にかけられたりもする。
セラはそれを懸念してヴィーラであることを隠そうとしているが、クロウは元々能天気な性格であることも後押しするのか、特に気にしていない様子だ。
人間に対しても特に嫌悪感や不快感を表すことはない。
自分達の親や仲間が殺された事実が其処にあっても。
それが彼の良いところであり、また悪いところであることをセラは知っている。
だからこそ、口を酸っぱくして何度も忠告しているのだが、クロウには馬の耳に念仏でしかない。
セラは深い深い溜め息をついた。

「もう、いい。早く次の街に行くぞ、クロウ」
「うぇ〜?もう、休憩終わり…?」
「当たり前だ。もうどれだけ此処にいる」
ポケットの中に忍ばせた懐中時計を取り出し、セラはまた溜め息を吐く。
ギアラの街から、次のユヒャン迄の道のりは徒歩で4日。
途中休憩を多く取れば更に日にちが掛かる。
セラはそれだけは避けたいようだ。
「…そろそろ、ベッドで寝たい」
セラがぽつりと告げれば、クロウもそれには賛同する。
「…確かに」
パンパンと膝の埃を払い、立ち上がるクロウ。
流石の彼も、何日も野宿というのは辛いのは同じのようだ。




.
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ