SHORT

□理屈じゃない
1ページ/8ページ

世の中には、

「お〜い、義隆〜」

他人には理解できないことと言うのが沢山、ある。

「早く、起きろよ、遅刻するぞ〜…!」

今、

俺が見た現実も、


もう慣れ切ったけれど、そんな事柄の一つ。

「由紀っ…!」
「ぅわっ……!」



俺の幼なじみは、同性愛者だ。





【理屈じゃない】






但馬由紀(たじま ゆき)。
16歳、高校一年生、男。
私立夕日ヶ丘高等学校(男子校)に通うごく普通の少年。

彼は今、幼なじみで同級生の一之瀬義隆(いちのせ よしたか)を寮室に迎えに来ていた。
後15分で朝食を食いっぱぐれるという焦りから、ノックも無しに部屋の扉を開け放った。
幼なじみであるし、ここの寮は基本一人部屋。
気兼ねすることなんて今更なかった……

の、だが。
いかんせん、彼の動きが止まり身体が固まる。
「義隆…………」
絶句。
その言葉に尽きると、由紀は思った。
「…んぁ、由紀か…」
「た…但馬ぁ一………っ」
何故か、なんて考えるのも面倒だ。
「お前な…っ、朝から盛るなよなッ……!」
由紀はわなわなと身体を震わせ、怒鳴りつける。
ベッドに押し倒されて、露な姿になっている少年と、それを押し倒している義隆。
誰が見たってこの状況。
どういう事か判るだろう。

義隆は、同性愛者なのだ。

「ち、違うんだ但馬ッ…!」
弁明しようとする少年。
由紀はそんな彼を見て、彼の名前を考えあぐねる。
「あぁ、C組の林道君か」
今思い出したとばかりに手を打ち鳴らし、由紀は押し倒されている林道君を、見た。
「失敬。用事が済んだら、お暇するから」
「へっ…!?」
「俺、別に君達がどんな関係でも気にしないし」
由紀は、義隆の性癖をかなり前から知っている。
こんな光景幾度見た事か。
今更心臓の一つも跳ねない。
いきなりのことに驚いて、「固まる」くらいだ。
「飯、先行くから」
「おぅ」
「お、おぅじゃないッ!とにかく、どいて…っ!一之瀬、どいて…!」
林道君は、義隆の下でジタバタと手足を動かして抗議した。
人に見られて続きが出来るほど、彼は出来た人間ではないようだ。
顔を真っ赤にして、義隆の身体を押し返している。
「なんだ、萎えたのか」
「か、帰るッ!!」
林道君は着衣の乱れを直しながら、義隆の部屋を後にした。
それを横目に、義隆は由紀を睨む。
「……逃げられたぞ、由紀」
「俺の所為かよ」
呆れてしまう会話。
こんなのも、日常茶飯事。
「こないだまでは、E組の宮澤だったじゃん」
「別れた」
「あ、そ」
高校に入学して、早4ヶ月。
義隆が、付き合った男の数はいくつになるだろうか。
確か、こないだまで付き合ってた宮澤君で、5人目だったはず。
ということは、林道君で、6人目ということ。
たった4ヶ月で、もう6人の人間と付き合った。
何と手が早い事だろう。
由紀は呆れながら、ため息を付いた。
「いい加減にしたら?」
「だって、あいつらが俺を好きだって言ったんだぜ」
だから、付き合った。
でも、いざ身体の関係に持ち込もうとすると、ああなる。
渋るのだ。
セックスを、嫌がる。
「お前は真性だからな…」
由紀は、林道君が去っていたドアの方に目線を移した。
真性の義隆と違い、彼は本気ではなかったのだろう。






.
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ