お題

□今更だけど言わせてよ
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「えー、それは違うと思う!」
「そんな事ないぞ」


桐嶋宅にて風呂を借り、明日は休みだし、長居する事になるかもな、と覚悟を決めてリビングに戻る。
桐嶋さんの背中が見え始めた頃、何やら日和と桐嶋さんの言い合う声が聞こえた。


そんなに深刻な空気ではないのだが、日和が真っ直ぐに反論するのが珍しい物だから、陰から見守ってみる。


「だって、男の人に可愛いはおかしいんだよ!絶対嫌がるもん」
「照れてるだけだ」


…ん?
いや、決して自惚れているわけではない…増してや望んではいない。
でも、桐嶋さんが"可愛い"と言う"男の人"には心当たりがあって。


「良いか、横澤はか…」
「てめっ、ひよの前で可愛いとか言うんじゃねーよ!」
「あ、お兄ちゃん!」


隠れて見守っていたのも忘れて、飛び出して後ろから叩く。
それ以上言われてたまるか。

暴れ熊の異名は心外ではあったが、今は熊並みの攻撃力がほしいとさえ思う。


「…ってー、別に今更じゃねーかよ」
「それでも…」


今更だけど、言わせろ。
他人の前で恥ずかしいこと言うな。


「……分かった。ひよ、もう寝る時間だろ」
「うん、おやすみなさい!」


ここで俺は桐嶋さんが素直に折れたのを疑って身構えるべきだったのに。
気付いたら捉えられて。


「じゃ、2人の時ならいーんだ?」
「…なっ……」
「横澤可愛い。マジ可愛い」
「やめ、ろ…」


あぁ、長居のみならず長い夜になりそうだ。

後ろから抱きしめてくる腕に、怒声の代わりに諦めのため息を。
甘い囁きには、せめてもの抵抗を。



「…るせーよ、アホ……」

fin
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