お題

□不意打ちなキス
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「高野さん、お風呂借りましたよ。満足なら俺これで帰……」


一緒に入る事だけは断固拒否した挙句、妥協点として高野さんの家のお風呂を借りた。

まぁ、あの高野さんの事だ。
俺ん家のシャンプーの匂いがする云々と言われるのを覚悟していたのだが…。


「……」
「…寝てるし」


リビングのソファに座り、低いテーブルに足を投げ出して寝ている姿は、"高野さん"に初めて会った時と同じ。
あの時は顔の上に漫画が乗ってたけど。


「………」


あれで姿勢崩れたら眼鏡割るよな。
さっきまでネームを見てもらってたおかげでかけっぱなしの眼鏡を、起こさないようにゆっくりと外す。

いたずらをしているような緊張感と高揚感に、鼓動が速度を増して行く。


(キス、したいかも…)


我ながら高野さんにこんな感情を持つようになった事には驚きだが、いつも翻弄されている身だ。
たまには俺だって不意打ちをかけて主導権を握っても良いと思う。




(やっぱムリ!)

覚悟を決めて顔を近づけてみるけど、どうしても一定のラインから踏み込めない。

…やめた、黙って帰ろうか。
そう、ソファから離れかけた時。


「っうわぁっ…!」
「キス、してくれるんじゃないの?」
「狸寝入りですか、性格悪っ!」


ぱっちり覚醒している高野さんに腕を引かれたと思ったら、後ろから抱きかかえられてしまった現状。



不意打ちなキス
高野さんへ奇襲作戦…不発。


「お望みならいくらでもしてやるよ」
「いいえ結構です帰ります!」
「は?帰すと思ってんの?」

…バーカ。
一般的には甘くもないセリフにとんでもない糖度を込めて囁かれた俺は。


結局は高野さんに敵うわけないのだと、諦めてその温もりに身を委ねた。



end.
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