お題

□人気者の君に妬く
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〜横澤隆史の場合〜


「横澤さん、ちょっと良いですか?」


仕事を上がろうと言う時、2.3人の女子社員に呼び止められた。
随分と楽しそうな様子からして、仕事の話ではなさそうだ。


「あ、あのっ、桐嶋さんって最近結婚指輪外したじゃないですか」
「何があったか知りません?」
「本気で狙ってる子がいて」


…やっぱり。
桐嶋さんはモテる。
彼女達にとっては前の奥さんがいようとどうでも良いらしい。


「何で俺に聞く」
「だって、桐嶋さんと仲良さそうだから」


まぁ分かり切っていたことではある。
桐嶋さんが営業部で無意味に俺を弄るようになってから、この手の呼び出しは後を絶たないのが現状だ。


「知らねーよ」
「そ、そうですか…」


あぁ、あの真ん中の子が桐嶋さんの事好きなのか。
ちょっと残念そうな顔を見ただけで分かってしまうのは何故だろう。

いやいや、そんな事はどうでも良い。
今日は日和に豚の角煮の下拵えを教えてやるんだ。
近いうちに桐嶋親子に食べてもらえるように。

…と、折角気を取り直したと言うのに。


「桐嶋さん、今日飲みに行きませんか?」
「そんな遅くならないつもりなんで!」


会社の出口で、女子社員に囲まれている桐嶋さんと出くわしてしまった。
内心の動揺を悟られたくなくて、
どうでも良い、と思っていたくて、

できるだけ控えめに脇をすり抜けて、1人で桐嶋さんの家の方へと歩き出す。


「悪い、今日は先客いるから」


そんな桐嶋さんの声が後ろから聞こえた気がした。



→続きます

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