お題
□あなたに追いつく目標
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「なー、雪名」
「何ですか?」
スキンシップを恥ずかしがって逃げたりもする木佐さんが大人しく俺の腕の中に収まっている。
それが気だるささえも心地よく思えるピロートークの時間。
「お前、もうすぐ就活じゃね?」
「そうっすね」
「なんか夢とかあんの?」
何か口出ししてやろうとか言う思惑の感じられない、単純に俺の事を知りたいがための質問。
いや、別に言いたくなかったら良いんだけど、
と控えめになる木佐さんが可愛い。
「とりあえず画家としては食っていけませんけど、せっかく美大出たし、商品開発とかデザイン系に行けたらなーって」
「アバウトだな、おい」
事実アバウトだけど、言葉では言い表せないようなイメージだけはきちんと自分の中にあるつもりで。
それでもただ一つだけハッキリと、目論んでる事を…言っても良いのだろうか、本人に。
「でもね木佐さん、俺一つ目標があって」
「目標?」
「木佐さんに追いつけるくらい頑張って働いて、木佐さんには俺の家に引っ越してもらって、定年前だろうと仕事辞めるなり減らすなりしてもらって楽してもらいたいんですよね」
仕事が好きなら続けても良いと思う。
それでもあんなにすり減りそうなほど無理してほしくない。
その分は俺が頑張れば良い。
「……っ」
「木佐さんどうしました?顔真っ赤ですよ?」
「だって、お前の家に越して仕事辞めるとか…」
ほんの少し言い淀んでから木佐さんはボソッと呟いた。
…寿退社、みたいじゃん。
「あぁ、そうですね」
「わ…笑うなよ!」
「笑ってませんって……」
あなたに追いつく目標。
達成の目安:木佐さん寿退社。
「木佐さん、いつか寿退社してくださいね」
「老後の幸せまで保証してくれるならな」
end.
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