お題

□それは反則
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「お、いたいた横澤」
「仕事の用以外で来るなと言ったはずだ」


ジャプン編集長がわざわざ営業に現れていちいち人の心を引っ掻き回して帰るのには良い加減イライラする。

深くなる眉間のシワが部下を怯えさせるだけだというのは分かっているが、俺は悪くないのだから仕方ない。


「仕事だ。販促のデータ」
「そこに置いておけ」


俯いているのは、こちらが意地でも下を向いてないとあの切れ長の瞳に捉えられてしまうから。

用が済んだら早く帰れ。


その願いも虚しく、わざわざ桐嶋さんは俺の肩を抱き込む様にして後ろから声をかけて来る。


「なー横澤、今日も家来る?」
「は…仕事中に何の話ですか」
「ひよが会いたがってる。いま約束が欲しい」

今日も、と"も"を強調するのは何の嫌がらせだろうか。

こちらが声を潜めているのに桐嶋さんの声が筒抜けなもんだからいやに視線を集めてしまう。


「ふざけんな…ひよを使うなんて…」
「使えるものは何でも使う主義だと言ってある」


思わず顔を上げると目の前にはそれは楽しそうに口角を上げる桐嶋さんがいて。


「それとも何だ?もっと恥ずかしい秘密をバラしても良いってか?」
「だから…っ」




それは反則だろ!

などと大声を上げるわけにもいかず。



「…分かった。定時で上がって行くとひよにメールしておけ」

そして今日こそ桐嶋さんの弱みを握ってやる。

そんな意気込みも知らずに、桐嶋さんはあまりにも嬉しそうに帰って行くから。




…俺はまた流されてしまうんだろうな……





(横澤さん、顔赤いっすよ)(うるせー、さっさと仕事しろっ!)


end.

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