お題
□サラリと言わないで欲しい
1ページ/1ページ
「雪名ってさー」
「何ですか?」
休日にまで押しかけて来て台所に立ってくれている恋人に話しかける。
「俺のどこが良い訳?」
前に喧嘩みたいな事をした時もそう思った。
イケメンで、器用で、優しくて…非の打ち所のない王子様が、何が悲しくて三十路のおっさんに執着してるんだろう。
「え?だって顔可愛いし、俺の顔見て赤くなるとか可愛いし…」
「い…良い。それ以上言うな」
何だか聞いて置いてこちらが恥ずかしくなってしまい、慌てて制止する。
まだ半分も挙げてませんよ、なんて笑う雪名が素敵すぎてどうにかなってしまいそうで。
でもやっぱりいつか捨てられるのかという不安や、
そもそも特定の恋人ができた事のない経験不足からの羞恥心が、
なかなか俺が"好き"と素直に言うのを許さない。
…まぁ、行為に溺れて羞恥もクソもなければ話は別だけど。
「じゃあ、木佐さんは俺のどこが好きですか?…あ、顔以外で」
洗い物を終えた雪名が俺の前にあぐらをかく。
そんな、心の中でだって恥ずかしくて仕方ない事、直接言えるもんか。
「軽々しく催促すんな」
「軽くないですよ、ガチです」
「よ…余計言えないっての」
いたたまれなくて後ろを向くと、後ろから長い腕が伸びて来て俺を抱きしめる。
1人で真っ赤になっていると、からかう様な、拗ねた様な声が聞こえた。
「えー、俺こんなに木佐さんの事好きなのに?」
ホントそう言う事、
さらりと言わないでほしい
増して後ろからだと、余計耳に直接響いて。
「…ぶ」
「木佐さん、今何て言いました?」
「全部だって!あーもう、二度と言わないからな、こんな事っ」
畜生、何9歳下に振り回されてんだか、俺。
でも雪名を好きって思える俺が俺は好きだ。
今までの自分より…何倍も。
end.
−−−−−−−−−
ブラウザバックでお戻り下さい。