お題
□鼓動は思うより正直で
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なし崩し。
そんな言葉が似合うのだろう。
ズルズルと桐嶋のペースとひよの無邪気さに連れられて。
とうとう泊まり込む所まで来てしまった。
それもかなりの頻度で。
「横澤、ここで寝ろよ」
「客間の布団あるんだろ」
「俺が一緒に寝たい」
これ命令、と一言付け加えられるともう抗う事は叶わない。
もそもそと布団に潜り込み、直ぐに背中を向けた。
「なー横澤」
「何だ、明日も早いのに……んっ」
後ろから絡んでくる手を振り払ったのが間違いだった。
僅かに桐嶋の方を向いた顎をすかさず捉えられ、口付けられる。
指先は不器用なくせに、舌先だけはその分器用なようで、あっという間に俺の舌を捉えて絡め取っていく。
かなり無理な体勢をしているはずなのに、身体の力は抜けていった。
「おいっ…明日も早いと言ってるだろ…っ」
「その割に良さそうだぞ?」
「ひ、ひよが起きてきたらっ…」
黙っていたら最後までされそうで、俺は必死で言い訳を探した。
仕事だろうとプライベートだろうと、こんなに取り乱す事など一生ないと…つい最近まで思っていたと言うのに。
「起こしたくなかったら声抑えろ」
「だから…」
「分かった、キスだけで我慢してやっから」
こんなのに良いようにされて、振り回されて。
それでも
「土曜日なら良いって事だろ」
「なっ…」
「約束な」
そうやって囁く声に、
再び近付く唇に、
鼓動は思うより正直で
寝なきゃと思うのに返って目が冴えてしまう。
当分自己嫌悪から抜け出せそうにない。
fin.
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