不器用な2人
□母の日≒トリの日。
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「どう言う意味だ」
「そのまんまだよっ、いつも…飯とか作ってもらってるし」
「はぁ……」
「ケーキでも良いかと思ったけどお前甘いもん苦手だし、家事なんか代わりにやろうもんなら悲惨な結果になるの分かってるし…」
どうやら母の日に触発されて吉野なりに必死に考えた結果らしい。
立ち上がって向き直り、それでもどうしても突っ込みたい事実がある。
「俺はお前の母親になった覚えはないが」
「わ…わかってるっての!」
「なら……」
「だから、俺にとってはトリの日」
どうやらコイツは俺が思った以上に真剣に考えてくれていたようで。
意識せずとも頬が緩んでいくのが分かった。
「そう言う事ならもらっておこう」
「最初っからそうしろ、バカ」
花束を受け取り、鞄を持ってリビングに入る。
自己申告通り、家事をやったような形跡は見られなかった。
「それからな、」
「まだ何かあるのか?」
スーツを脱ぎ、きっちりと締めていたネクタイを解くと後ろから声をかけられる。
暫く手提げをゴソゴソやっていた吉野が、漫画原稿用紙を机に広げた。
「そんな事考えてる暇があったら仕事をしろ!」
「な……」
「って言うと思ったからネームは上げてから来た」
俺の真似なのだろう、眉間に皺を寄せたと思ったら今度は自慢げな顔をして机の上のネームをぺしぺしと叩く。
普段のペースから言えば驚異的な早さだ。
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