不器用な2人

□側にいる理由
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「だ、大体さー、何でそんなに面倒見良いんだよ、良すぎるだろ」
「それは…」
「もう嫌だって放っておきたくなる事ねーの?」


仕事関連の愚痴から少しでも話題を逸らしたくてまくし立てると、俺を睨みつけていたトリがふっと遠くに視線を投げた。


「俺が世話しなきゃお前は真っ当な生活を送れないだろう」
「あー……まぁ…」
「…と俺が思っていたいんだ」


一言目に苦笑いをした吉野に、ポンと変化球が飛んでくる。
驚いてトリを見上げると、宙を見つめながらトリは淡々と語りだした。


「世話してやれば、千秋も俺を必要としてくれる。俺が家事なんかしなくなったら…」


やはり酒の力なのだろう、いかにも本音ですと言うような台詞がダラダラと続いた。

それでも流石に逡巡するらしく言い淀んだ部分こそ俺が聞きたい事な訳で。


「…しなくなったら?」
「俺が千秋の側にいる理由はなくなる。千秋だって俺じゃなくても良くなるだろう」
「んな事ねーよ!」


前の俺だったらそうかもなー、なんて流されたかもしれない。
でも今はトリと付き合ってる訳で。


「家事を取っても千秋を繋ぎ止めておける物を持っていると言う自信なんかないんだ」


自嘲するトリを見て、苛立ちより困惑が先に立つ。

何言ってんだ、自信ないって。
いつも堂々としてて、優の前なんかでは"千秋は俺の物"オーラ出しまくってるくせに

…どの口がそんな事今さら……。



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