不器用な2人

□母の日≒トリの日。
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今日は5月の第2日曜日だった。
世間的には母の日と言う。

仕事が忙しくて帰れるかは分からないと、花を送って電話だけ入れ、案の定作家とネームの擦り合わせをして帰宅。


…玄関の鍵は開いている。
足元にはだらしなく脱ぎ捨てられた靴が一組。
それが意味する事実は一つだけだ。


「吉野、来ているのか?」
「あ…トリ?」
「当たり前だ。誰の家だと思っている」

2人分の靴を揃えていると、奥からパタパタと担当作家兼恋人が出てくる。
その気配に振り返ると、バサッと音がしそうに大きな花束を手渡された。


「トリ…その、いつもありがとう」
「…は?」


それは真っ赤なカーネーションで。
とっさに真意が掴めなくて呆然とするが、本人はいたって真面目なようだった。


突拍子もない発想に至るのはいつもの事で、それこそ作家の原動力であるのだが、

靴を揃えながらしゃがんだままの俺と、真っ赤な花束を顔を真っ赤にして差し出す小柄な恋人が対峙している構図は、我ながら奇妙ではある。



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