異なる世界

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「わ、わかったって…。強盗犯の狙いがわかったんですか?」

光彦の言葉に、気絶させた男をトイレのホースで縛っていたコナンは頷いた。
謎が解けたかのように得意げに笑うコナン。

「こいつら強盗犯は恐らく…。人質になってる客に成り済まして…この銀行を脱出するつもりだって事がな!!」
「な、成り済ますって言ってもよー…」
「ど、どうやって?」

困惑している歩美達にコナンは謎を紐解いていくように言葉を繋いでいく。

「強盗犯達が同じ格好をしていたのは見たよな?」
「ええ…トイレでジョディ先生にやられてのびている男も…そのジョディ先生をスタンガンで気絶させ連れて行った男達も、全員目出し帽を被って同じジャンパーを着ていましたから…」

頷いたコナンはホースで縛った強盗犯を見る。
トイレでのびたまま放置されてる仲間の男の目出し帽とジャンパーを脱がせたり、目の前で気絶している男が目出し帽とジャンパーを脱いでいるのは、人質の中から自分達の人数分の5人を選び出し、スタンガンで気絶させ、目出し帽とジャンパーを着せて強盗犯グループに見せかける算段だ、とコナンは言う。

「でも、そんなのすぐバレるんじゃねぇか?」
「バレねぇよ…。ジョディ先生が目と口と両手をガムテで塞がれていたって事は、他の人質もその状態だろうからな!」
「そっか!見えなかったら悪い人が何やってるかわからないものね!」

強盗犯が人質を連れや知り合いが居る客と1人で来た客を分けたのは、一人で来た客から5人を選んで強盗犯の格好させとけば、事が済んだ後その5人が消えても誰も言わないから、とコナンは付け足す。
が、コナンの言葉に光彦と元太は疑問を抱く。

「事が済んだ跡に消えるって?」
「何でだよ?」
「この銀行にあるお金を集めさせ、それを強盗犯が持ってきたケースに詰めさせるのを支店長1人にさせたのはなぜだと思う?」

光彦が一番詳しいからなんじゃ…、と言うがコナンはそれに頷かない。

「大抵こういう支店の小さな銀行には、すぐに出せる所に1億、ATMの中に2億、計3億円の現金がある…。それを1人で回収しケースに詰めるには、結構時間がかかる…」
「じゃあ、どうして1人に?」
「最初からケースに入れるつもりはねーんだよ!ケースの中身は多分…」
「爆弾が入っているから…」

コナンは目を見開いて小鳩を見た。
ば、爆弾!?と驚愕している歩美達に小鳩は頷き、手を顎に当てる。

「爆弾入りのケースを置いたカウンター内に、強盗犯の格好をさせた5人、支店長、ジョディさんを寝かし、支店長に出させたお金を置いて爆発させる…」

後に残るのは爆死した7人の死体と辺りに飛び散ったお金のみ。
爆発後に突入した警察には恐らく、爆弾を使い金庫でも開けようとしたが途中で爆発、それを運んでいた強盗犯一味が支店長やジャディを巻き込んで爆死。犯行は失敗に終わったように見えるっていう寸法…。

「で、どうかな江戸川くん?」

貴方の推理と合っている?と首を傾げるとコナンは目を見開いたまま小鳩を見ていて、もう一度名を呼ぶとハッとしたように気が付き、戸惑いながら頷いた。

「って事はよ、強盗犯達はお金を盗る気はなかったのかよ?」
「いや、恐らく支店長に多額の金を一旦どこかの口座にネット上で振り込ませ、それを自分達の口座に転送させる気だよ!日本から手が出しづらい外国の銀行にな!」

ネットで振り込むのか、と小鳩は納得する。
犯行はわかっても、金をどうするつもりだったのか小鳩はわからなかった。
服に隠したとしても多額の金額は盗めないよね、と自分の考えを消す。
知能犯ですね、としどろもどろになる光彦にコナンは否定して、呆れている。

「とんだトーシロだぜ!たとえこの銀行から3億円が外国に送金されたとしても、500万を超える送金目的の不明な金は法律上の規制がかかって本部の外為センターでストップがかかる!ひと昔ならそんな事はなかったが…。詐欺やマネーロンダリングが横行しているご時世だからな…」

恐らく銀行を襲う計画をしたのは随分昔で、面子や武器を揃えるのに年月をかけちまったって所だろうとコナンは言う。
呆れた眼差しで気絶した男を見るコナンに、どのみち失敗する計画に光彦も元太も呆れ返っている。
だが、と気絶していた男が持っていた拳銃を拾い上げたコナンはそれをじっくり見た。

「拳銃は本物!爆弾も恐らく…なめてかかったら奴らの所に乗り込んで捕まえられねぇぜ!」
「乗り込むって…」
「どうやって?」

不安げにコナンを見つめる光彦と歩美。
それで撃つのか?と元太はコナンの持つ拳銃を見つめている。
それは無いとばかりに笑顔を浮かべたコナンは拳銃は預かっておくだけで撃たない、とズボンに挟み、上着で拳銃を隠した。
子供が拳銃を持つなど危ないが安全装置はしっかりしてあったし、“もしも”の場合、使う手がある。
小鳩はコナンの隠し持つ拳銃に視線を向け、逸した。

「まあ、乗り込む時は堂々と大手を振ってかな?」

余裕の表情を浮かべるコナンに歩美達は狼狽える。

「え〜っ!!」
「残りの強盗犯、3人もいるんですよ!!」
「撃たれちまうぞ!!」
「大胆に行動するね…」

ジト目でコナンに見られた。
強盗犯の行動などわかっているだろと言わんばかりの視線に知らんぷりする。
今頃もう既に強盗犯は行動を起こしているだろう。
人質に成り済ますためのね。

「大丈夫!その時が来れば奴らにオレ達の姿は見えねぇよ!」
「その時って?」
「多分奴らは人質みんなに聞こえるようにこう叫ぶはずさ…」

「くそっ!!こーなったら金庫ごとふっ飛ばしてやる!!野郎共!!手伝え!!」

聞こえてきた男性の叫び声にコナンは口角を上げる。

「さ、叫ぶって…」
「もしかして今の?」

確認するように尋ねる歩美達にコナンは頷く。
行動を起こした強盗犯に、小鳩は顔を引き締める。
一秒も時間を無駄にできない。

「歩美ちゃんと柚木さんはエレベーターの扉を開けっ放しにして待ってて!元太はエレベーターの前に置いてあった台車を人質が集められているカウンターの所に!オレと光彦は先に行ってくる!全員音を立てず落ち着いて素早くな!」

コナンの言葉に少年探偵団は顔を引き締め力強く返事をする。
コナンと光彦が走り出したと共に、小鳩と歩美と元太はエレベーターへ走り出す。
エレベーターの前にあった台車を元太がコナン達の元に持っていった。
エレベーターのボタンを歩美が押すと、直ぐにエレベーターの扉が開きそのまま中に入ろうとする歩美を小鳩は止める。

「私がボタンを押しているから、吉田さんは離れて」
「え、柚木さん…?」

小鳩が中に入り、開くボタンを押す。
戸惑っている歩美に小鳩は肩を竦める。

「大丈夫。江戸川くんがなんとかしてくれる…でしょ?」
「う、うん!」

不安がっていた表情を緩め、エレベーターから少し離れた歩美に安堵する。
万が一の事を想定して自分がこの役目をする方がいいだろう。子供達の怪我は最低限に押さえておきたい。
それにしてもエレベーター内で爆弾を爆発されるなど、よく思いついたことだ。
こちらに向かってきている掛け足音と混じって聞こえる台車の車輪の音に、その方に視線を向ける。
台車にケースを3つ乗せ、やって来たコナン達にボタンから手を離す。
外に出ろと叫んだコナンに頷き、入れ違うように小鳩は外に、コナンは爆弾を乗せた台車をエレベーターに乗せた。
閉じかけるエレベーターにコナンが素早く外に出たのを見届け、エレベーターから距離を置く。
エレベーターが閉じて数秒もしない内に、凄まじい爆音が響き渡った。
無事にエレベーター内で爆発できたが、爆発の威力を知らしめるようにエレベーターの扉は凹凸に姿を変えていて、一歩でも間違えていれば軽い怪我だけでは済まなかっただろう。
エレベーターを見ていた小鳩は爆弾が処理できたことに一安心する。

「ふぅ…なんとか間に合ったな…」
「すぐに爆発しなくてラッキーだったね!」

人質が集まるカウンターに向かう中、安堵の息を吐く元太と歩美に、コナンはラッキーじゃねーよと得意気に笑う。

「人質に成り済ますなら目と口、そして両手をガムテで後手に縛らきゃならない!さっき叫んでた奴は大声を出した後で口を使って両手を縛り、人質の所へ行き…。目と口をふさいだ後、手首で縛られた両腕の中に足を通して両手を後ろに持ってきたんだろーからな!時間にある程度余裕がないと焦っちまう…。3分ぐらいは余裕があると踏んでいたよ…」
「でも、何で時限爆弾だったんでしょうか?リモコンなら都合のいい時に爆発させられるのに…」

疑問を抱く光彦に、コナンは口角を上げる。

「バーロー。両手を後ろで縛られていたら、リモコンのボタンを押した後遠くに投げられねぇだろ?」
「な、なるほど…」

人質の集まる場所に着けば、そこには一箇所に人質がぱっと見40名ぐらいは集められていて、皆目と口、両手を縛られ静かにしている。
辺りに強盗犯の姿は無くて、人質の中に強盗犯が紛れ込んでいるのだろう。
カウンターの中を見れば、目出し帽とジャンパーを着た人が5人気絶して倒れていて、近くにジョディと支店長らしき人も気絶している。
推理と合っている状況に喜ぶべきか悲しむべきか…。
少しでも遅れていたら爆死していたなと呑気に考える。

「でも、この中からどーやって残りの3人見つけるの?みんな、目や口にガムテープ付けてるんだよね?」

強盗犯にバレないよう、小声で話す歩美にコナンは蝶ネクタイの変声機を弄る。

「簡単だよ!奴らの声を使ってこー言えば…

よーし、次は全員立って…。俺の声がする方にゆっくりと歩いて来てもらおうか!!いいか!ゆっくりとだぞ!前の奴にけっつまずくんじゃねぇぞ!」

仲間の1人の声を変声機を使い、怒声を上げたコナンに従うように人質達はゾロゾロ立ち上がり、ゆっくりと小鳩達が居る方に歩み寄ってくる。
その姿に光彦と元太は戸惑っていて、これでどーやって犯人を見つけるんだと呟いた時、歩美が何かに気がついた。
あ!と声を上げた歩美の方を見れば、立ち上がる人質たちに反して、三人の人質が座ったままで何やらオロオロしている。
その様子を見ただけで強盗犯の三人とすぐわかり、コナンがその三人に歩み寄る。
その後ろを小鳩も付いていく。

「あんたら3人だったんだね?」
「計画にない事を指示されて動かないのは強盗犯本人達…だね」

問い詰めるように言えば3人は見るからに挙動不審に慌てだして、逃げようにも目を隠し両手が塞がったままではまともに動くことは出来ないだろう。
銀行員を解放して入り口を開けてもらおうとコナンの指示に歩美達は元気よく返事する。
拘束状態の強盗犯を警察に渡せばもう事件も解決したと同然だろう、ホッと安堵の息をつく。

「機動隊が中に入ったらこの3人と…廊下で縛られている奴とトイレでのびている男を…」
「誰がのびているって?」

突然背後から聞こえた声に小鳩は振り返ろうとしたが、その前に身体が宙を浮いた。
自分が捕らえられたと気がついた時にはお腹に力加減をしていない腕が食い込むように回っており、頭部に硬いものが押し付けられていた。

「あの外国人女といい、ガキといい…何だってんだ!!」

悪態を吐く小鳩を捕らえた男性はジョディに気絶させられトイレで気絶していた男性で、冷静に状況を把握した小鳩はお腹に回る腕の拘束に顔を顰める。
油断していて気が付かなかった…この男の拳銃を回収してなかったのか、と心の中で舌打ちを零す。

「おいガキ!動くんじゃねーぞ!こいつを撃たれたくなければな!!」

何かをしようとしたコナンの動きに男性は気が付き銃口を小鳩に押し付けられる。
悔しげに顔を歪めるコナンと、柚木さん!と悲痛の叫びをあげる歩美達の姿に男性は卑劣に笑う。

「こうなったら籠城作戦だ!地獄の果まで付き合ってもらうぜ?」

今の状況で籠城作戦で強盗犯が勝てる見込みはないと思う。
いっその事自分を人質に逃走してもらう方が小鳩にとっても都合がいいのに…。
さて…どうするか、と思考を回していると、頭に押し付けられていた銃口が離れていき、小鳩の視界に拳銃が映った。

「とりあえずお前は…死ねや!」

銃口はコナンに向いていて、トリガーに指を掛けた男性に小鳩は大きく目を見開かせる。
この男性はコナンを殺すつもりだ。
咄嗟に氷のアリスを使いトリガー部分を凍らせたのと銃声が響き渡ったのは同時だったと思う。
響いた銃声の後に頭上から苦痛の声が聞こえ、小鳩の身体が解放された。
床に足が付いた小鳩は、自分を拘束していた男性の肩が撃たれた事に驚愕し、コナンは無事かと視線を向ける。
男性の銃は撃たれてなかったようで、無傷のコナンに安堵するが…。
銃弾が来た方に目を凝らしているコナンに小鳩も銃弾が打ち込まれただろう方へ視線を向ける。
銃弾が飛んできたのは人質たちが集まっている方からで、銃声で取り乱して暴れまわる人質達の奥、小鳩はその人物を捉えた。
銃口を強盗犯の男に向け打ったであろう、帽子を深くかぶった男性の姿が。
だが、一瞬にして暴れまわる人質達に隠され見えなくなった。
銃声をきっかけに銀行の外で待機していた機動隊が突入し、強盗犯一味はあっという間にお縄になった。
今度こそ収まった強盗事件に小鳩は深く溜め息を零した。


―――…
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