異なる世界

□FILE27
1ページ/1ページ



賑やかな車内の後部座席に小鳩は乗っていた。
いつもの白い車ではない。
賑やかにしている元凶を見ていけば、元気よく歌っている歩美に光彦、元太。
更には運転している阿笠博士までも歌っている。
今日は少年探偵団と共にキャンプに来ていた。
運転している阿笠博士に、身体が大きいため助手席に元太。
あと残りは後部座席で、窓際には哀と光彦。二人に挟まれるように真ん中に小鳩と歩美が居て、運転席の座席にコナンが捕まっている状態だ。
キャンプ場には阿笠博士の車で行くことになって、初めて阿笠博士という人物に会った。
ぽっちゃり体型の老人で、初めて顔を合わせた時は笑顔で迎えてくれた。
小鳩の事はコナンを通じてよく覚えていてくれたみたいで。
なんでも自分の作った開発品を褒めてもらったことが嬉しかったらしく、違う開発品をまた見に来てもいいよという許しも貰った。
まあ、コナンの持つ開発品は興味深いものだから別のも見れるというのは楽しみだ。
賑やかに歌う子供達を見て思っていると、隣に座る歩美がにっこり笑ってこっちを向いた。

「柚木さんと遊ぶの久しぶりだね!」
「そうだね」

凄く楽しみにしてたんだー、と表情を綻ばす歩美に、彼女の隣に座る光彦も僕も楽しみにしてましたよと同じく笑顔を浮かべた。
遠出するなら体調が良くなってからじゃないとダメだと言われていて、体調不調でずっと誘いを断っていたが、やっと平熱に戻り零からの外出許可も貰った。
無茶をしないように、と見送られたのを思い出しながらにこにこ笑う歩美と光彦に目を細める。

「私も楽しみにしてたよ」
「ほんとー!向こうについたら何しよっか?」

キャンプなどやったこと無い小鳩は、歩美と光彦、そこに元太も加わり、やりたい事を口々に話す姿を見ていた。


―――…


「よーしテント完成じゃ!!!」


キャンプする場所に着き、皆でテントを張り終わった。
テントの近くにそれぞれの荷物が入ったリュックを置き、ソワソワしている子供3人に阿笠博士が声をかける。

「ワシと哀君でカマドを作るから、君らはその辺の森から薪になる枝を拾ってきてくれ!」

はーいと元気よく返事をする歩美と光彦と元太。
早速歩きだそうとする三人にコナンと共に最後尾を歩こうと思っていると小鳩の名前を呼ばれた。

「小羽君は身体が弱いと聞いておるから一緒に待っておくかの?」

コナンから聞いたのか、どうするか聞いてくる阿笠博士に小鳩は少し考え、頷く。
元気な子供達と行っても疲れると思う…いや疲れる。
待っておくと言えば、歩美が不満げに声を上げた。

「柚木さん行かないの?」
「ごめんね。無茶したらいけないって言われてるから」

本音など言えるわけもなく、建前を告げ、哀の近くに寄る。
残念そうにする歩美に早く行こーぜと元太が歩き出し、それに光彦とコナンが付いていく。
いってらっしゃい、と小さく手を振り見送れば名残惜しそうに歩美も歩いていった。
背を向け歩いていった4人の子供達を見送り、阿笠博士がカマドを作るかの、と動き出す。
小鳩も手伝おうとついて行こうとすると、ねぇと声をかけられた。
声をかけてきた哀に小さく驚いて、顔を向ける。

「…?」
「これ、ありがとう」

小さな紙袋を差し出され、小首を傾げ受け取る。
中を見れば白いマフラーが綺麗に畳まれて入っていて、目を瞬かせる。

「あなた体弱いのに人に貸すなんてバカね」
「え?あ、この間の…」

そういえば、哀に自分のマフラーを巻いていたなと思い出す。
貸したあの日から数日間哀は休んでいて、登校したかと思えば怪我を負っていた。
日にちも経っていたし、あげるつもりで巻いたからマフラーの事などすっかり忘れていた。
きっと洗って綺麗にして返してくれたマフラーにお礼を言えば、哀は小さく驚く。

「貸してくれたのだから返すのは当然でしょ」

顔を逸して、阿笠博士の元に向かう哀に小鳩は慌てて付いていった。


―――…


カマドを作り終え、カレーを作る用意をしていた。
キャンプと言えばカレーを食べるらしい。
鍋など用意し、材料を手際よく切っていく哀の様子を見ていると後ろで何やらキョロキョロ辺りを見渡している阿笠博士。

「遅いの……。どこまで拾いに行っとるんじゃ…」

薪拾いに行ったっきりまだ帰ってこない子供達を心配しているみたいだ。
そういえばまだ帰ってきていないな、と小鳩も辺りを見渡す。
姿は無く、声も聞こえてこない。

「森の中でも探検してるんじゃないの?好奇心旺盛な探偵さんが引率者だし…」
「皆、好奇心旺盛だけどね…」

きっと何か見つけて少し遠くまで行っているのだろう。
黙々と材料を切っていく哀に習って小鳩も包丁を握りしめる。
リンゴを切って以来の包丁だ。

「それより博士、料理の準備手伝ってよ!」

突っ立っている博士に呼びかけている哀の声を聞きながら、じゃがいもに包丁の刃を当てる。
と、小鳩の包丁の握る手を上から同じ大きさの手に掴まれた。
キョトンと掴まれた哀の手を見、彼女の顔を見れば呆れた顔をしてる。

「あなた、指を切るつもり?」
「じゃがいもを切るつもりだよ?」
「見ていて危なっかしいわ。…親が過保護なのも頷けるわね」

切るのは私と博士がするから、と包丁を取られてしまった。
まさか子供にまで言われてしまうとは、肩を竦める哀に小鳩は首を横に振る。

「親はいないよ。義兄が親代わり…というのかな。お義兄さんが心配性なだけ…」

服の中に入れているネックレスに触れ、落としていた視線を上げれば哀と阿笠博士は複雑な表情をしていた。

「あなた…親がいないのね…。余計なこと言ったわ…」
「…いいの。もうずっと前のことだから」

両親が亡くなってあれから17年も経っている。悔やんでいるが、もう悲しんではいない。
悲しんでいたって両親が戻ってくるわけでもない。
きっと母と父は幸せになって欲しいと願っているだろうから。

言った言葉に我に返る。今の姿で“ずっと前”など言うと可笑しなことだ。
頬に冷や汗が流れるのを感じながら恐る恐る阿笠博士の様子を伺う、

「そうじゃったか…。生まれて間もなくにもういなかったのじゃな…」
「…うん」

不審がられていないみたいで良かった。
暗い表情の阿笠博士に小鳩は何ともないといった感じで頷く。
でも、哀の方は顔を顰めていて。
この話はもういいだろう、料理の続きをと哀に促したが、腕を掴まれた。

「…私も、両親も姉も亡くなったわ」
「…?!」
「哀君!?」

神妙な表情で言った哀の言葉に目を見開く。
阿笠博士も驚いていて、瞬きして哀を見つめていると彼女はフッと口角を上げた。

「なんだか私達、似ているわね…」
「…私も思ってた」

全然悲しそうな表情をしない彼女に、小鳩も目を細めた。
多分哀の両親や姉も彼女が生まれて間もなく…昔に亡くなったのだろう。

「あなたとは気が合いそうだわ」
「…柚木小羽」

え?と目を瞬かせる哀に小鳩は一息ついて手を差し出す。
両親を亡くしてから他人に自分から近づくなんて初めてかもしれない。

「私は柚木小羽。…よろしくね灰原さん」

手を差し出すなんて慣れてなくて、微かに震える。
差し出した小鳩の手をジッと見ていた哀は微かに表情を緩め、

「灰原哀よ。よろしく柚木さん」

ギュッと握手を交わした。
その様子を阿笠博士は微笑ましそうに見ていて、気恥ずかしくなった哀と小鳩は顔を見合わせ阿笠博士を見る。

「見てないで博士も手伝って!」
「切る係お願い」
「わ、わかったからそう睨まないでくれんかの」

話も一段落し、料理の準備を開始したのはいいが、

「よくこんな腕で今まで自炊してたわね…」
「ほっとけ…」

阿笠博士の切った材料は切込みが入っただけで繋がっており、それを摘み上げた哀はジト目で阿笠博士を見る。
まだ自分が切ったほうがマシなのではないかと、包丁に手を伸ばしたが哀に睨まれてしまった。

「柚木さんは包丁持たないで、怪我するでしょ」
「大丈夫なのに…」

結局切る係は哀がする事になり、切る工程を眺めていた。
リュックの中に入れていた哀と小鳩の探偵バッチからコナンの声が出ているだなんて…。
離れた位置に置いたため、小鳩達が気づくことはなかった。
次の章へ
前の章へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ