□呟き
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+アニナル前提。
+アニナルだと二人は面識あり(一緒に共闘もしてた)
+マキは砂忍の封印班の女の子(布縛りの術の彼女)

『マキちゃんってカッコ良いよね。』

同年代の女の子達といると、決まってこう言われる事がある。
別に自分はそんな風にしているつもりはないのだけれど。

『だって砂の上忍の格好、凄く似合ってるし。』
『雰囲気とかキリッとしてるし。』
『声もハスキーで、しっかりしてるしリーダーシップもあるし。』
『それに加えてクールでしょ。言う事なしって感じだもん!』

友達のマツリとサリは口を揃えてそう言っていた。
少しばかり憧れのような眼差しも込めて。
その度に自分は首を傾げてその事について考え込んでしまう。
カッコ良い。
クール。
女の子友達からの自分の評価に不満がある訳じゃない。
むしろその逆で純粋に嬉しい。
マキ自身そんな人になりたかったからだ。
自分を母親のように見守り、育て、鍛えてくれた先生のように、自分もなってみたかったから。

━でも、何か違う。
そう、何故か腑に落ちない。
何故なのかも分からなかった。
ただ一つ分かっているのは、本当の自分はそんな人間じゃないと言う事。
任務のない日は普通にロングのマキシスカートを着てサンダルを突っ掛ける。
甘い物だって大好きだ。
それに可愛い物も好きだった。
至って普通の女子。
普段はあえてそれを言わないでいるだけで。
それだって、嫌で隠している訳じゃない。
聞かれないから言わない。
話す必要もないから話さない。
それで余計に違うイメージを持たれるのも事実で。
そんな自分の本音と、周りの子達が受ける印象の違いに悩む事もよくある。
カッコ良い私。
そうじゃない私。
私、私、私。
私って何なのだろう?
━パクラ先生、貴方なら分かりますか?
なんて事をポツリとかつての師に問い掛ける事も多くなった。
勿論答えは返って来ない。
彼女はもうここよりもずっと遠い場所に行ってしまったから。
それで余計に寂しくなる。
そして悩みはもっと複雑になって、難解になっていく。
答えは逃げて行くばかりだ。
いつまでもそれに追い付けない。
ずっとそれが続くような気がした。
あの言葉を掛けてもらうまで。

・ ・ ・

「マキって可愛いんだな。」

何気ない挨拶を口にするように、そう口にしたのはザジだった。
その言葉の意味が掴めなくて、思わず手を止めて彼を見つめ返した。
自分の手の中では紙カップに入ったアイスクリームが、じっと口の中で溶けるのを待っていた。
アイスの色は淡いピンクだ。
自分の好きな甘い色。
マキはじっとザジを見つめた。
自分よりも少し血色の良い肌を、茶色いカカオ色の髪を、キョロキョロと動く小さめの黒い瞳を余す事なく。
(マキの肌は白くて、髪はチョコレート色だった。)
暫し黙ってもう一度ザジの言葉を反復する。
アイスを口に入れて味わうように、ゆっくりと。
そしてようやく意味を理解する。
━私が「可愛い」。
慣れない言葉に心の中の自分が勘繰り始める。
そして結論を出す。
彼はからかってる。
きっとそう。
首を傾げてマキは答えた。

「冗談?」

その言葉にザジが小さく噴き出した。
何度か咳き込む。
手をひらひらと振って「違う違う」とジェスチャーで示すのが見えた。

「んな訳ねーじゃん。本心本心。」

じっとザジを見つめ返した。
そして言う。

「そう思う?」
「ああ。」」
「どんな所が?」
「んー・・・。」

プラスチックのスプーンを置いてザジが考える。
向こうのカップにはミルク色のアイスが入っていた。
バニラも美味しそうだった。
今度はそれにしようか、なんて事を考える。
と、ザジが口を開いた。

「パッと見た時はクールな子だなって思ったんだけど。」

━クール。
チクリ。
聞き慣れた、悪く言えば聞き飽きた言葉に思わずそんな気持ちになる。
と。

「でもそうじゃないんだなって。」
「え。」

パチリ。
目をパチパチと瞬きさせる。
彼が続ける。

「キツイ子なのかなって思ってたけど、穏やかで優しい感じだし。」
「こっちのジョークにも笑ってくれるし。」
「それに甘い物も好きっぽいしさ。苺好きなんだ?」

そして言葉を切った。
と、今度はニッと口角を上げてみせる。
無邪気な気取らない笑顔。

「やっぱ女の子だな。」

再び瞬き。
もう一度ザジを見つめ返す。
からかっているようには見えなかった。
気取っている訳でも、ふざけている訳でもない。
開けっ広げな表情でザジはマキを見つめていた。
そんな素朴な仕草が、マキは少し好感が持てた。
(大概の男子はもっとぎこちなく、わざとっぽく、そうでない場合は気取っていたから。)
━もっとチャラチャラした人だと思ってた。
よく女の子達に声を掛けるような、あんな感じの男子と同じなんだと思っていた。
でもザジは彼らとはどこか違う。
確かに髪を長めに伸ばしていたり、少しノリが良過ぎる所もある。
でも。
━ザジは、何だか暖かい。
草原に生えている草のような。
ザジはそんな温もりに似ている。
と、彼がまた笑う。
ホッとするような、素朴で優しい笑顔だった。

「可愛いよ。うん、マキは可愛い。」

本日三回目。
三回だ。
三回も言われた。
同年代の男の子に。
━・・・っ!
急に顔が熱くなる。
首から耳までが湯たんぽにでもなったみたいに熱い。

「マキ?」

彼が名前を呼んでくる。
慌てて顔を下に向けてそれを隠した。

「あれ、マキ?」

戸惑ったようなザジの声がした。
━あ。
そうか。
下を向いたんじゃ俯いたも同然だ。
不安になるのも無理はない。
再び顔を上げると、ビックリした彼の顔が見えた。
三白眼の目がちょっとだけ見開かれている。

「顔真っ赤になってる。」

その言葉にもっと顔が熱くなる。
頬に両手を当てて再び俯いた。
今度こそ彼も慌てる。

「マ、マキ?」
「ザジのせい。」
「え、」
「ザジのせいだよ。」

真っ赤になった顔を隠して呟いた。
全然いつもの自分らしくない。
カッコ良くないしクールじゃない。
でも何故だか腑に落ちた。

「ありがとう。」

消え入りそうな声でそう告げた。

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