□読めない
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「オモイは優しいよね。」

ポツリと隣に座って静かに絵を描いていた少年がこぼした。
急に言われたその言葉の意味を掴みかね、眉を寄せて少年の方を向く。
相変わらず彼は穏やかな、そしてどこか淋しげな微笑みを浮かべてスケッチブックと向き合っていた。

まただ、と心の中で呟いた。
この少年は時々そんな顔をしては不思議な事を口にする。
その度に自分はどう答えたらいいのかと悩まされるのだ。
サイとの会話はなかなか難しく、その表情を読み取るのは至難の業のように思えた。
よくナルトは彼とうまく付き合えるものだ、と思う事が時々ある。
だからオモイの師匠であるあのビーとも仲良くなれたのだろう。

自分はナルトほど社交的ではないし、誰かを励ましたり笑わせたりするのも苦手だ。
それでも戦争が終わってからはこうして頻繁に彼を訪ねている。
任務のついでに立ち寄る時もあれば、直接木ノ葉隠れの里に用があって来た時にばったりそこで出会う時もある。
最初こそはお互いこそばゆく気まずい雰囲気になっていたが、最近はすっかり慣れてしまい二人でいる事が増えた。
思えば俺もこいつに負けず劣らずかなり物好きな人間だな、と客観的に自分を見ている自分がいる。
相変わらず会話は少ないが、それでも一緒にいると何だか落ち着いた。

「優しいって・・・、どこがだよ。」
「うーん、どこがって言われたら難しいかな。ちょっと待って。」

しばらく沈黙が流れ、サイが鉛筆でスケッチブックに絵を描き込むカリカリという音がした。
その間、彼はこちらの質問の答えを考えているらしく、微かに眉間に皺を寄せていた。
やがて答えが浮かんだらしく、鉛筆を止めてこちらを向く。

「僕なんかと一緒にいても何もないのに、ここにいてくれるところ、とかかな。」
「・・・ダチと一緒にいんのは普通だろ。」
「でも、退屈だって思ったりしない?」

にっこりとサイが笑う。
黙ってオモイはその顔を見つめた。
色白と言うにはあまりにも白すぎる肌に指がよく通るほどさらさらとした黒髪を持つ彼は、人形並みに綺麗な容姿をしていた。
自分の上司にもこれくらい綺麗な外見の(ただしその人は金髪で、サイほど血色は悪くはない)人がいたな、とぼんやり思い返していると、再びサイが口を開いた。

「僕は何も返せない。それなのに、君はいつだって色んなものを僕にくれる。」
「俺だってそんな大した事はしてないけど。」
「ううん、してるよ。だって、君といる時の僕はこんなにも生き生きしてるから。」

昔の僕はこんなに人間らしくなかったよ?
そう言ってフフ、と笑みをこぼす友人の顔を、思わず綺麗だと思ってしまった。

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