□通りすがりの17.9
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ガタリと音を立てて思わず立ち上がった。

「え、兄弟弟子?!」
「そ。」
「そうそう。」

あっさりとオモイとナルトが同時に頷き返す。
二人の反応に呆気に取られてザジは固まっていた。
自分達が今いるのは一楽ラーメンの屋台だ。
自分の隣ではナルトが旨そうにラーメンを啜っていた。
子供の頃からこの店に行き付けているらしく、店長とも仲が良いらしい。
(「テウチのおっちゃんにはいっつも世話になってんだよ。タダで食わせてくれたりとか。」)
オモイはそのナルトの隣に座っている。
つまりナルトを挟んで自分とオモイが座っている、と言うなかなか奇妙な光景だった。
まさか自分が彼と接点を持つ事になるとは、先輩や大人達は思いもしないだろう。
オモイはもう食べ終えてしまったらしく、早速棒付きキャンディを口に入れて転がしていた。
その中に混じって何故自分がここに居るのか。
話を纏めるとこうなる。
偶々ナルトと一緒にいるオモイにばったり出会い。
そのまま色々と会話を交わし。
その成り行きでナルトとオモイの誘いで一緒にラーメンを食べる事になったのだ。
ザジ自身、ナルトと話すのは初めてだったりする。
幼い頃から日向の皆が彼について色々な事を言っていたからだ。
化け狐を宿す子供。
近寄ってはいけない。
話してはいけない。
友達になろうなど以ての外。
そうした類の話を頻繁に聞かされいたせいか、ザジも無意識にナルトを遠巻きにしていたのだった。
そもそも彼とは年代が少し違う。
ザジの方がナルト達の年代よりやや早めに中忍試験に受かっていた為だ。
そう言う訳で慣れ染めの意味も込めて彼の誘いに乗った、と言う訳になる。
正直不安な面もあった。
途中から首を突っ込んで来た自分は受け入れてもらえるのだろうか、と。
今まで避けてきたのにいきなり近い立ち位置に移動してきた自分を、ナルトはどう思うのだろう、と。
昔のトラウマも相まって不安は大きかった。
が、すぐにそれが無用な心配だった事が分かった。
ナルトはあっさりと自分を友達認定してくれたのである。
聞けば自分のもう一人の友人であるサイと、ナルトは同じ班を組んでいるらしい。
人との接し方が下手なサイが、友人付き合いが上手くやっていけているか心配していたのだと言う。

『でもオモイとお前が友達になってくれたから、大丈夫っぽいな。安心したってばよ。』

そうナルトは言って穏やかに笑ってみせた。
思い切って途中から間に入ってきた自分の事を「うざったい」と思いはしないのかと訊いてみると。

『なーに言ってんだってばよ。お前はサイの友達、だろ?だったら俺も大歓迎だってばよ!』
『サイの奴、ちっと不器用な奴だからさ。少し心配してたんだ。俺とサクラちゃん以外にちゃんとした友達いなかったから。』
『あいつの友達になってくれて、サンキュな。俺ってばむしろお前に感謝してっから!』

眩しい笑顔でナルトはそう言ってのけたのだ。
明るく温かい笑顔で。
その瞬間に一気に彼に抱いていた今までのイメージが消え去ってしまった。
そしてどうしてオモイがナルトと仲が良いのか、納得出来てしまった。
ナルトはまるで太陽のような少年なのだ。
彼が笑うだけで、言葉を掛けるだけでガラリとこちらの気持ちが解れてしまう。
最初はまさかオモイが彼と親しかったとは思いもしなかった。
が、人柱力を師匠に持ち、純粋に慕って尊敬している彼なのだ。
ナルトと仲良くなるのも自然な成り行きだったのだろう。
ストンと再びスツールに腰を下ろす。
まだ食べ掛けのラーメンを掬いながら、ザジは黙って先程聞いたばかりの話を回想した。
兄弟弟子。
あのナルトとオモイが。
この二人が兄弟弟子だったとは。
こちらが混乱している事をオモイは見取ってくれたらしい。
キャンディを舐めながら彼が説明してくれた。

「俺の師匠、ビー様が人柱力だって事は知ってるよな。」
「ああ、こないだ教えてくれたっけ。」
「ナルトも九尾の人柱力だからさ。コツを教えてもらう為に弟子入りしたって訳。」
「で、よく考えたら俺達同じ師匠持ってるから、兄弟弟子だよなーってなったんだってばよ。」
「へえー・・・。」

ナルトの話によると今では尾獣コントロールの修行の為によく雲の里に行くのだと言う。
オモイと組手をする事も多いそうだ。
何より驚いたのは、ナルトがシーとも面識がありよく顔を合わせている事だった。

「シーさんとも知り合いだったのか?」
「おー、シーの兄ちゃんな!結構よく会ってんだ。」
「人柱力の治療も受け持ってる人だから、修行の度に手当てしてもらうんだよ。」
「俺ってば時々張り切り過ぎてよく怪我すっからさー、兄ちゃんには世話になってるんだってばよ。」

どうやらシーは人柱力の治療役まで任されている身らしい。
それなりに里の中でも地位の高い忍なのだろう。
ますます彼がミステリアスな人物に思えてきた。
と、ナルトの言葉にオモイが笑って彼の肘を突いた。
何の下心もない、普通の友達にするような仕草だった。
ニヤリと笑いながら彼が言う。

「で、その度にシーさんから説教食らうんだよなぁ?」
「う・・オモイ、掘り起こすなよ・・。」
「いや、だって毎回説教受けてるだろ。普通は一回でも懲りんぞ?」
「しゃ、しゃあねえってば。俺わちゃめちゃ暴れ回っちまうからさ。
 それにビーのおっちゃんの修行のハードルの高さも原因あるっての。」
「あー、確かに・・・。」

ナルトの弁解にオモイが苦笑を溢す。
純粋に気になり質問をした。

「修行ってどんな?」
「「あー・・・。」」

オモイとナルトが顔を見合わせ、苦笑いを溢した。
再びオモイが説明してくれた。

「俺達とビー様とで二対一で組手するんだよ。」
「俺らがビーのおっちゃんをのしたらこっちの勝ち、なんだけどさ。」
「ビー様体術めちゃくちゃ強いから。二人掛かりでも全然勝てねえ訳。それで二人共ボコボコにされるんだよな。」
「なー。ダルイの兄ちゃんとシーの兄ちゃん二人掛かりでも勝てないらしいし。」
「・・そんなにきついんだ・・・。」
「で、最後は手当て受けながらのシーの兄ちゃんからの説教。
 これがなかなか鍛えられんだよー。体もだけどメンタルも。」

なかなかハードな修行を彼らはこなしているらしい。
が、オモイの話ではこれが「雲流の鍛え方」なのだそうだ。
傷が付くのは当たり前。
ぶつかり合って互いを鍛え合う。
雷影自身がそうした考えを奨励している為、里でも大いにその思想が取り入れられているのだと言う。
話を聞いただけでげんなりしてしまいそうだった。

「うへー・・俺だったら絶対ダウンするな。」
「俺も毎回死ぬ思いなんだよなー・・・。」
「シーさんやダルイ隊長も同じ修行してたって言うから驚いちゃうよ。」
「シーさんも?!」
「兄ちゃん達もか?!」

一斉に二人でオモイを見つめる。
オモイがさらに説明した。

「ああ、昔はもっとハードだったらしいけど。最近の修行はまだ軟いほうなんだってさ。」
「どんだけ?!」
「うちの里、結構スパルタな所も多いから。」
「・・ある意味木ノ葉で良かった。」
「俺も同感だってばよー・・・。」

机に項垂れる自分達に、笑ってオモイが言う。

「雷影様の側近とか、上層部にいる先輩達の方がもっと大変だよ。雷影様、すぐ手が出ちゃう人だから。」
「「手が出る?」」

こちらの問い掛けに彼が頷いた。

「そ。何か手違いとか失敗があれば暴力が飛ぶんだって。まあこれはダルイ隊長から聞いた話なんだけど・・・。」
「雷影のおっちゃん、そんなにバイオレンスだったのか?!」
「俺は知らないんだけどな。あ、でも・・・。」
「でも?何だってばよ。」

暫く顎に手をやり、黙ってオモイは考え込んでいた。
やがて彼が再び口を開く。

「こないだシーさんが思い切り雷影様にもろアイアンクローされてた気がする。何か書類に手違いがあったって・・・。」

沈黙。
今度はナルトが口を開く。

「・・そういやこないだ向こうの共同風呂使わせてもらって、兄ちゃん達と入ったんだけどさ。
 シーの兄ちゃん、体のあちこちに痣出来てたってばよ。・・ひょっとして、あれもおっちゃん?」
「・・多分。」

再び沈黙。
しん、と場が鎮まり返る。
何故か背筋が寒い。
冷たい何かが走り抜けるような。
悪寒のような感覚。
確かにそれを感じた。
と、ナルトが張り切って明るくその空気を振り払う。

「・・おーしっ、飯も食ったから修行修行!」
「お、おう。」
「そうだな。」

ガタガタと一斉に席を立った。
ナルトがカウンターの向こう側に向かって声を掛けた。

「テウチのおっちゃん、ラーメン旨かったってばよ!またな!」
「はは、いつも助かるな。頑張ってこい。」
「ウッス!」

カウンターに代金を置き、そのまま三人で立ち去った。

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