□通りすがりの16.5
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夕暮れの河川敷は子供達の遊び場になっていた。
小さな小石が集まった川岸に佇み、遊ぶ子供達を見守る。
子供達は全員が楽しそうに川に向かって石を投げている。
が、投げ方がまだ定まっていないらしい。
投げられた石はボチャンと音を立ててすぐに川に落ちてしまった。
悔しげに子供達が言う。

「あー、また落っこちた!」
「難しいー。」
「上手くいかねえなー、よしもう一回!」

思わず苦笑を溢す。
自分も覚えたての頃はよくやらかしたものだ。
もう少し手解きをしてやった方がいいだろう。
と。

「わー、凄い凄い!」

子供が声を上げた。
声に釣られて視線を移す。
━お。
パシャッ、パシャッと勢い良く石が川面を跳ねて進んで行く。
岸まで後少し、と言う所で石は水の中に消えた。

「よっしゃ!もう少し!」

石を投げた張本人であるオモイがガッツポーズを作る。
つい先程自分が教えた投げ方をもう体得し始めたようだ。
呑み込みの速さに舌を巻く。
さすがは将来有望の子供、と言う事か。

「オモイ兄ちゃんすっげー!」
「俺も早く投げれるようになんないと!」
「どうやって投げてるの?手本見せて。」

わいわいと子供達がはしゃぐ。
負けじと石を投げるものの、やはり川の半分も行かずに落ちてしまう。
投げて川面に石が触れた瞬間、落ちてしまう子供もいた。
やれやれ、と砂利を踏み締めて子供達の方へと向かう。
ここは自分が見せた方が早いだろう。

「たく、投げ方が甘いんだよ。まあ見てろ。」

こちらの声に子供達が一斉に振り返る。
川岸に落ちていた平たい石を見つけて拾うと、岸辺に立って構えた。
興味深々と言った様子で子供達が見守る。
川面を見据えて藍は目を細めた。
投げる角度は確か。

『いいか?水平に見える角度から、20度だ。』
『あまり振り被るなよ。軽い力でも飛ぶ。』

脳裏に言葉が甦る。
思わず昔の記憶に引き戻される。
任務の合間で川に立ち寄った時に、旧友と二人で水切りをした時の事だ。
なかなか成功しない自分を見兼ねて、彼は石を長く飛ばすコツを教えてくれたのだった。
手取り足取り教えてくれたおかげで、今ではすっかり体に染み付いている。
懐かしい。

『力み過ぎても駄目だぞ。重心を傾け過ぎないようにな。』

ああ、分かってる分かってる。
分かってるよ。
昔散々お前に習ったからよ。
懐かしい声に頭の中で返事を返す。
そして。
ヒュッと石を川へと投げた。
石が水面に当たる。
水を跳ね散らかしながらそれは真っ直ぐ川の上を跳ねて行った。
パシャッ、パシャッと軽快な音がする。
石の勢いは変わらず、そのまま進んで行く。
川岸で息を詰めながら子供達がその様子を見守る。
そして。
カッと石が固い物に当たる音がした。
反対側の岸に行き着いたのだ。
しん、と静まり返る。
そして一斉に子供達が歓声を上げた。

「凄い!渡り切った!」
「おじさんクリアしちゃった!」
「すっげー、俺なんかちょっとしか飛ばなかったのに。」

子供達を振り返り、ニッと笑って言ってやる。

「ま、ざっとこんな感じだな。もっ回教えてやるから、もう一度やってみろ。」

威勢の良い子供達の返事が返ってきた。
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