□通りすがりの14.5
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親友を振り切って。
里を抜け出して。
そんな自分を待っていたのは勿論逃亡生活だった。
霧の追い忍程追跡に長けた輩はいないだろう。
暗殺や医療にも長けた厄介な集団だ。
初めの数年間は死ぬ気の逃亡劇だった。

今でも思い出せる。
集落を点々として。
森や山に逃れる事だってあった。
出くわしたら最期。
二度と日の光を見れなくなる。
毎日が危険と隣り合わせだった。
が、何とか自分はやりおおせてみせたのだ。
あの落ちこぼれだった俺が。
あの無能扱いされていた俺が。
あの霧の追い忍部隊を上手くまき、逃げ切ったのである。
初めて自分の能力に感謝した。
危なくなった時は別人になり済まして。
危険が近付けば頭がそれを教えてくれた。
生まれて初めて自分の能力も悪くはないな、と思えたのだ。
変な気分だった。
それが里にいた頃に思えれば良かったのに。
何度そう呟いた事だろう。
結局自分は、あの里で生きていくには余りにも弱かったのだ。
そして余りにも繊細過ぎた。

幾つもの場所を点々とした。
当初は水の国にいたものの、国内にいる限りは自分に身の保障はないと判断して最終的には国を出た。
自国に留まっていられたのはたった五年程。
それからはもう外国をひたすら放浪した。
霜、湯、木ノ葉。
そして雷の国に落ち着いたのだ。
雷の方が水よりも国土が広いし、隠れ場所も多い。
そこで暫くは向こうの人間に化けて暮らす事にした。
感知能力者だと言う事は伏せておいた。
霧で散々酷い目にあってきたからだ。
もうあんな思いをするのは御免だった。
それに、相手に「自分は非戦闘員です」と公表しているのと同じ事に思えたからでもある。
同じ目に遭った人ならこれは分かってくれる筈だろう。
能力について伏せておいたおかげか、雷の国ではある程度平穏な生活を送る事が出来た。

雲隠れの里を訪れた事も勿論ある。
丁度十五年程前の事だ。
好奇心から数カ月程そこに滞在した。
その時はとりあえず周りに合わせていつも使っていた白人の姿で里に紛れ込んだ。
が、その時の周りの態度は今でも忘れられない。
里に着いて早々、黒い肌の男達に絡まれたのだった。
子供の白人の姿をしていたのも原因だったのだろう。
他所者だった事も強かったに違いない。
成すすべもなく殴り倒され、唾を吐き掛けられた。
その時は意味が分からなかった。
何でこんな目に遭わなきゃいけない?
どうしてあいつらはあんなに冷たい?
他所の国でもあんな扱いは受けなかったのに。
が、やがて里で過ごし、同じ白人の忍達(彼らはむしろ友好的で、本当に良くしてくれた)の話を聞いていく内に気付いた。
あの里の「特殊な習慣」に。
黒人の方が白人よりも立場が上。
戦闘に長けた忍の方が、医療忍や補助忍よりも立場が上。
男の方が女よりも上。
そして、大人の方が子供よりも上(これは当たり前だろうが、あの里では特にその傾向が強かった)。
試しに黒人の姿に化けた所、黒人の忍達は態度をガラリと変えてきた。
家族や古くからの友人に接するように、気さくに話し掛け笑い掛けてきた。
そして暇があれば白い肌の人間の愚痴を喋る。
逆に白人の忍達からは怯えた、警戒するような視線を向けられた。
正反対の周りの態度。
それで自分もようやく気付いた。
あの里で罷り通っていた「差別」に。
霧のように殺伐とした里ではない。
里の忍も毎日が生きるか死ぬかの瀬戸際と言う生活を送っている訳でもない。
むしろ平和だ。
が、その水面下に確かに何かがあった。
黒い靄のような物。
擦り込みのように染み付いてしまった病のような。
あの里も霧の里と同じで、自分のような忍を見下す習慣に蝕まれていたのだ。
結局はどこにいても、自分達のような忍は見下されるのだろう。
身に染みる程そう思い知らされた。
同時に自分を見失いそうになった。
だったら俺達は、何の為にここにいる?
何の為に生きている?
こんなの、ただのボロ切れのような物じゃないか。
地面を這いずり回る鼠のような物じゃないか。
何の為に俺はいる?
俺は何だ?

『お前はボロじゃない。鼠なんかでもない!』

ふと脳裏に声が響いた。
懐かしい彼の声。
同じ境遇にいたのに、自分とは正反対の道を選んだ彼。
そしてフラッシュバック。
土砂降りの雨の中。
場所は竹林だ。
目の前に一人の青年が立っている。
着流しにリブ生地のタートルネックのアンダー。
頭に巻いた額当て。
全身ずぶ濡れのまま、彼はこちらを見据えている。
着流しの袖は裂け、所々に切れ目が入っている。
傷だらけだ。
誰がそうしたんだっけ?
思い出した。
そうだ、自分だった。
辛い事があったように歪められた顔。
濡れた水色の髪。
灰色の目。

『お前は・・・』

そして若者は叫ぶ。
血を吐くような、悲痛な響きを持つ声で。

『俺の親友だ・・・!』

遠い過去の彼方から声が聞こえ、消えた。
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