□通りすがりの12
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これは夢だ。
きっと夢だ。
そう、自分は何か嫌な夢を見ている。
そう、そうだ。
そうに違いない。
だっておかしいじゃないか。

「よ。久しぶりだな、少年。」

何であの眼帯の男性が。
目の前で悠々と座っているのだろう?

「・・ザジか。」

こちらに向かってシーが苦笑を浮かべた顔を向ける。
少し疲れたような表情だった。

「な、な、な・・・。」

言葉を失い、思わずザジはその場に立ち尽くした。
何で。
何で。
何でこの男がシーといる?

「何でここにいるんスか、あんた?!」

咄嗟に男性に向かって指を差して声を上げた。
「人に向かって指を差すんじゃない」とホヘトからは散々言われてきたものの。
そうせずにはいられなかった。
だって。
だって。
おかしいだろう。
━何であんたがここにいるんだよ!
こちらの言葉にケロリとした表情で男性が答える。
脚を組んでスツールに座った様子はまるでゲストを迎える部屋の主か何かだった。
ただし彼の場合は部外者でしかないが。

「ああ、ちょっとした怪我でな。それで彼に診てもらおうと。」
「見え透いた嘘つくなっての!あんた本当何しに来たんスか!?」
「心外だな・・これでも一応怪我人なんだが?」
「そんなピンピンした偉そうな顔で言われても説得力ねー!」

自分でも驚く程言葉が出てくる。
まさにマシンガントークだ。
それだけこの男性に対して頭に来ていたのだと思う。
あれだけ物騒な騒動を起こし掛けておいて、よく堂々と病院に来れたものだ。
正直に言うとまだあの時の痕が首に残っている。
赤い手形がくっきりとザジの首に残っていた。
今もまだ首の包帯は取れていない。

「シーさん、何でこいつ病院に入れたんですか!思い切り問題起こし掛けた人でしょ!」

こちらの指摘にシーが肩をすくめて返答する。

「一応彼が怪我をしたのは事実だからな。頬をやられて出血したそうだ。今はもう傷は塞がってるが。」
「じゃあ何でここにいるんスかこの人?!」
「今度は眩暈らしい。」

何だそりゃ。
呆れを通り越してもう何も言えなくなってしまう。
シーが続ける。

「俺は雇われ医療忍だからな。患者なら治療する、それだけだ。厄介払いしようもんなら俺の首が飛ぶぞ。」

さらりと物騒な言葉を言ってのけたシーに思わず言葉が出なかった。
確かにそうなのだが。
男性も加勢に加わる。

「頬が削げちまった人の身にもなれ。死ぬかと思ったんだからな。」
「ほっぺた掠った位で人間死にませんからね?!あんた嘗めてんのか!」
「ああくそ、あんま大声出すなっての。またくらくらしやがった。」
「ものっそい嘘臭いんスけど気のせいっスか。本当に眩暈なんスか。」
「まあ、そう尖るなよ少年。」

ゆっくりと彼がスツールから立ち上がる。
ふらり、とその体がよろけたような気がした。
目の前にぬっと彼の体が立った。
こうして見るとかなり背が高い。
思わずビクリと体が震えてしまった。
が、そんな長身の体とは裏腹に決まり悪そうな様子で男が言う。

「あの時の事、怒ってるなら謝る。確かにあれはやり過ぎだったからな。金髪さんからも言われちまったよ。」
「あんたが物騒過ぎるんだろ・・・子供相手に。」
「はは、確かに否めないな。」

シーの鋭い指摘に男性が苦笑する。
何故かシーが子供を叱る教師か何かに見えてしまう。
男性が子供っぽい所も相まって、余計に彼のしっかり者気質が際立っている。

「ま、そう言う事だ。許してくれるか?少年。」

静かに男性が手を差し伸べる。
大きな手だ。
細いようで太い、長い指をしている。
綺麗な手だ。
暫く何も言わず、じっとその手を見つめていた。
そして男を見つめ返す。
水色の澄んだ髪。
灰色の目。
眼帯。
シーよりも幾らか年を感じさせる顔立ち。
男性のチャクラが伝わってくる。
掴み所のない、モヤモヤとしたチャクラ。
急に明るくなったかと思えばしんと静かになる。
暖かいと思えば急に冷たくなる。
時と場合によってコロコロと質の変わる、そんなチャクラだった。
まるでボンヤリと景色を霞ませてしまう、白い霧のような。
一瞬ぞわりと背筋に冷たい物が走った。
得体の知れない物を前にしているような感覚。
咄嗟にこう思った。
━怖い。
そして。

パチンッ。

「って。」

思い切り相手の掌を叩いた。
無言の拒絶。
一瞬の出来事だった。
疑心に満ちた目で男を見つめ返す。

「あんたの事・・俺、多分好きになれない。」

冷めた声で言い放つ。
少し怯えも混じっていたと思う。
意地悪で言っているのではない。
相手を傷付けたくて言っているのではない。
本能が警戒している。
彼のチャクラを拒絶している。
この人が、怖い。
チャクラが怖い。
何故なら。

「あんたのチャクラは・・嫌いだ。」

自分の声が病院の部屋に響く。
シーが微かに目を見開いてこちらを見つめ返した。
驚愕の表情だった。
それから逃れるように彼から目を逸らす。
そのまま無言でドアに駆け寄った。
勢い良くドアを開けると、そのまま病院の廊下を駆けて行く。

「ザジ!」

シーの声だ。
でも振り返らない。
今は逃れたかった。
男のチャクラから。
何故そこまで彼を拒絶してしまったのか、自分でも不思議だった。
ただ一つ分かっているのは。
━あの人のチャクラ、中身がなかった――――。
そう、何も見えなかったのだ。
明るくなったり冷たくなったり、感情の変化はあるのだが。
それだけだった。
男性自身の「質」がない。
大抵の相手ならチャクラでどんな人なのかが分かってしまう。
チャクラはその人の性格を教えてくれる。
それなのに。
あの男性はそれが何一つ分からなかった。
気味が悪い程に空っぽだった。
あんなチャクラ、初めてだ。
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