□通りすがりの11
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「兄ちゃん!シーの兄ちゃんだよな?」

病院に活発な声が響き渡る。
その場にいた全員(受付を行き来していた医療忍、患者達だ)が一斉に振り返るのが分かった。
兄ちゃん?
あの彼を?
予想外の呼び方に愕然となったのだろう。
数人の子供達の相手をしていたシーは内心で苦笑を溢した。
想定していた通りの周囲の反応。
誰が来たのかはすぐに分かった。
生き生きとした活力に満ちた明るいチャクラと。
もう一つの大きなチャクラ。
そして自分をそんな風に呼ぶ人物は一人しかいない。
振り返り、声の主に視線を向けた。
大きく腕を振り返し(少し大袈裟にも見えるが)、一人の少年が駆け寄って来る。
オレンジと黒のツートンカラーのジャージを着た、眩しい金髪の少年。
左右両頬には狐の髭を連想させる三本の筋が浮き上がっている。
海を思わせる青い瞳は溌剌と輝いていた。
うずまきナルト。
九尾の人柱力。
雷影に直々に直訴しに行くと言う無茶ぶりをやってのける程に、肝の据わった子供。
相変わらず彼は元気にやっているらしい。
前より少し背が伸びた気もする。

シーの周りに群がっていた子供達もナルトに気付いたようだ。
はしゃぐのをやめ、一斉にそちらに目を向ける。
こちらの腕を掴んでいた子供の一人が軽く腕を引き、呟いた。

「あ、ナルト兄ちゃんだ。」
「シーさん、兄ちゃんの事知ってるの?」
「仲良いの?」
「まあ、な。ちょっとした知り合いだ。」

小さく子供達に囁き返した。
そしてこちらに突っ込む勢いで駆けて来るナルトに向き直る。
呆れたように腰に手を当て、シーは声を張り上げた。

「ナルト!病院で走るんじゃない。」

こちらの一喝に即座に彼がブレーキを掛ける。
床を滑ってシーの目の前で急停止すると、ナルトは頭に手をやりながら笑った。

「悪い悪い!ちょっちテンション上がっちまって。」
「お前な・・こっちの里でも同じ注意をしたんだが?もう忘れたのか。」
「はは・・俺ってばすぐ右から左に抜けちまうからさ。またやっちゃったなー。」
「ったく。」

全く悪びれていない様子はビーとそっくりだった。
正直彼のあの破天荒さをこの少年も受け継いだような気がしてならない。
本当に似た者師弟だ。
やんちゃな所も悪戯好きな所も。
ビーにすっかり慣れていたせいか、ナルトに接する事にもシーはすぐに馴染んでしまった。
少なくともナルトの方がビーよりはまだ落ち着きがある。
それにラップ口調で話さない分、まだ彼の方が話しやすくもあった。
それに、少なくともこの少年はまだ常識人だ。

「あれ、ダルイの兄ちゃんはいねーの?見掛けねーけど。」

キョロキョロとナルトが辺りを見回す。
その反応に思わずシーは苦笑した。
よく考えれば、今までナルトに会った時は常にダルイ同伴だったのだ。
おかげで「シー=ダルイもいる」と言う方程式が彼の中ですっかり成立してしまったのだろう。
まあ仕方ない。
実際確かにそうだったのだから。

「生憎あいつは来てないぞ。別の任務で雲にいる。」
「そうなのかってばよ。いっつも一緒だからてっきり来てんのかと思った。」
「そんなに一緒だったか?」
「うんうん。何つーか・・シーの兄ちゃん単体だと何かしっくり来ねーんだよな。変な感じ。」

んむむ、と顎に手をやりながらナルトがこちらを見つめた。
ナルトからもそう見えていたのか。
内心で複雑な気持ちになる。
彼が続けた。

「いつからこっちに来てたんだよ?病院行かねえから全然知らなかったってば。」
「二週間程前からだ。火影から要請があってな。医療忍の増援に来いと。」
「綱手のばあちゃんが?いつ決めたの?」
「・・雷影様との会談の時に、その場で指名された。問答無用だったから断れなくてな・・。」

ナルトの顔に苦笑が浮かぶ。
火影の性格を彼もよく知っているらしい。
何せあの彼女の事を「ばあちゃん」と呼んでみせる程だ。

「ばあちゃん、狙った獲物は逃がさないってタイプだもんなー。
 でもあのばあちゃんに引き抜かれたって事は、やっぱ兄ちゃん腕立つんだな!」
「まあ、これでも雷影様と人柱力の治療を任されてる身だからな。甘く見られては困る。」
「えー!そんな凄い肩書き持ってたのかよ兄ちゃん?!」
「他の奴には黙っとけよ。噂が立つと面倒だから。
 一応俺が雷影の側近だってのはシークレットって事になってるからな。」
「オッケー、黙っとく。」

敬礼の仕草をし、ナルトが口角を上げた。
今度はこちらが質問する。

「お前の中の九尾は?どうなってる?」
「うん、クラマも元気だってばよ。ビーのおっちゃんと八っつぁんは?」
「あいつらも変わらず元気だな。八尾は相変わらずビーの世話を焼いてる。」

あはは、と再びナルトは苦笑した。

「八っつぁんも大変だなぁ・・って、え、何だってばクラマ。俺も大して変わらねえだろって?ひでー!」

どうやら九尾に突っ込みを入れられたらしい。
ビーも会話中に八尾に話し掛ける事があったので、シーは特に気にならなかった。
他の人には奇妙な独り言を言っているように見えるだろうが。
ナルトもそれを配慮して普段は人前では声に出して尾獣に話し掛けるような事はしないと言う。
が、人柱力に慣れているシーの前ではあまり気にする必要もないと判断したのだろう。
今では普通に九尾に話し掛けている。
以前うっかり彼がこちらの目の前で尾獣に話し掛けてしまった事があった。
その時に自分が変な目で彼を見る事もせず、気味悪がる事もせず、尾獣と会話をしている事を見て取ったのが大きな理由だったのだと思う。
何せ自分は二人の人柱力を側で見てきた。
彼らと尾獣の知識は人よりは知っているつもりだ。
ビーを通じて八尾ともコンタクトを取ってきた身でもある。
だから九尾に対してまるで一人の人間のように接するナルトの気持ちも少し分かる気がした。
尾獣には意思があり、名前があり、それぞれ違った個性がある。
そして彼らは賢い。
恐らく人間よりも。
八尾と二尾、二匹の尾獣に触れた事のある自分だからこそ、それが分かったのかも知れない。
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