□通りすがりの7.5
1ページ/2ページ


「すみません。」

背後から声を掛けられ、ふと何気なく振り返った。
さっきから背後に誰かのチャクラを感じ取っていた為、別に驚く事はなかったのだが。
初めて感じるチャクラだった為、誰なのかも分からなかった。
が、目の前に立っている人物を目にした途端、思わず目を見開いた。

「少し時間を貸してもらっても・・宜しいですか。」

落ち着きのある低い声で相手が言う。
頭の上の方で結い上げた黒髪。
厳粛な印象を与える顔つき。
目元に刻まれた深い彫りが、幾ばくかの年を感じさせる。
若い男性だが意外と年を取っているのかも知れない。
自分より年上のように思える。
二十代後半か、もしくは三十代前半か。
もしくはそれ以上か。
見方によっては若くも見え、ある程度年を取っているようにも見える。
普通の若者にはない、重く構えた雰囲気が彼にはあった。
そして、白い瞳。
━日向の人間、か。
反射的に警戒の壁を張り巡らせる。
彼は確か。
そして思い出す。
ついさっきザジの側にいた男性だ。
何故彼が病院にいて、自分に声を掛けているのか。
再び彼が言う。

「ザジの手当てをして下さったでしょう。礼を言いたくて。」
「礼も何も、俺は医療忍ですから。怪我人を治療するのは当たり前でしょう。」

チラッと廊下の長椅子に腰掛けている二人の少年に目を向ける。
ザジとオモイがそこに並んで二人で座っていた。
ザジは首に包帯を巻いてある。
オモイは腕の傷を消毒して塞ぎ、同じように包帯を巻いておいた。
二人共軽傷だ。
内心で息をつく。
本当、子供には常に冷や冷やさせられる。
先程の彼らと交わしたやり取りを頭の中で思い返した。

+ + +

「ザジ。」

少年の名を呼び、ゆっくり近付く。
なるべくそっと彼の首に手を添えると、ザジは微かに肩を震わせた。
痛がっているのだとすぐに分かった。
痛みを堪える顔を覗き込み、穏やかに言う。

「後で病院に来てくれ。首を圧迫されただろう?」
「え、あ、はい。」
「それに、オモイもだ。お前、我慢してるな。」
「げ。」

こちらの質問にオモイが顔を引き攣らせた。
問答無用で彼の腕を取ると、痛そうに彼が顔を歪める。
これでも少ししか力を入れていないのだが。
忍服の袖を捲ると腕に巻いた赤い包帯が裂け、褐色の血の滲む肌が露わになっていた。
オモイが呻く。

「いってて!シーさん、痛いっスよ。」
「これは?いつの怪我なんだ。」
「えーっと・・さっき丁度討伐任務から戻った所で。」
「その時のか。」
「・・はい。」

思わずやれやれと息をついた。
やらかすだろうとは思っていたのだが。
まあ仕方ない。
子供はそう言うものだ。

「はぁ・・ったく、二人共、まとめて病院に来い。それと・・・。」

通りでしゃがみ込んだままになっている子供に歩み寄ると、同じようにしゃがみ込む。
さっきよりも口調を和らげた声で声を掛ける。

「少しの間一緒に来てくれ。何もしないから安心しろ。」
「ホント?」
「ああ、来てくれるな?」

こちらの言葉に素直に少年がこくこくと頷き返す。
そのおぼこくあどけない仕草に、思わず笑みがこぼれた。
怖がらせないようにとゆっくり両手で子供を抱き上げ、オモイとザジを振り返る。

「お前らも来てくれ。すぐ手当てする。」
「その子、どうするんですか?」

心配げに訊くザジに、口角を上げて答える。

「まずは手当て、だな。その後に火影に取り計らってもらうつもりだ。」
「火影に?」
「ああ。この間お前の財布を取り返した子供達も、同じようにしてもらったのさ。」
「そうだったんスか・・・。」

ホッとしたように彼の表情が明るくなる。
心配だったのだろう。
青少年らしい純粋な思いに、再び笑みを漏らす。

「じゃあ行くか。」

+ + +

そして今に至る、と言う訳だ。
二人の手当ては済ませた。
子供もシズネに頼んで、火影邸まで連れて行く事にした。
一通り仕事が終わった所で、新たな客が来たのだった。

「貴方が・・シーさんですね。雲隠れから綱手様が臨時で引き抜かれた。」
「ええ。そうですが。」
「俺は日向ホヘトと言う者です。ザジの先輩に当たります。」
「あんたが?あの子の?」
「ええ。」

彼――ホヘトが続ける。

「忙しい所失礼します。貴方を探していたんです。」
「ほう?」
「警戒せずとも何もしませんよ。話がしたいだけなんです。」

黙ってじっと相手を見つめ返す。
質問には答えないまま。
冷静に相手を観察した。
何が目的だ?
雲忍である自分に一体何の用がある?
警戒するなと言われても無理な話だった。
何せついこの間に、同じ一族の忍からあからさまな敵意の篭った目を向けられたのだから。
尖った視線には人一倍敏感なのだ。
胸が抉られる思いにさせられる。
やがてホヘトが続けた。

「この間うちの一族の者が、貴方に無礼な真似をしたようで。その事で謝罪を申し上げにと。」
「・・それだけですか?」
「ええ。他意はありません。」
「何故?貴方は日向の人間で、俺は雲忍です。本当にそれだけなんですか。」
「ええ。本当ですよ。信じて下さい。」

何も言わず、黙ってホヘトを見つめ返した。
無表情の顔を。
白い瞳を。
暫く沈黙が流れた。
探るようにホヘトの目を見つめる。
が、そこには何も映ってはいない。
警戒も、敵意も、憎悪も。
むしろこちらに好意的に接しようと努めている色が伺えた。
純粋な、混じり気のない誠意。
何の色も混じっていない、穏やかな色。
信じてもいいのか。
雲忍の自分でも?

「貴方の事はザジから聞いていました。あの子が貴方に懐いてる事も、薄々感じ取っていましたよ。」
「・・・。」
「今では貴方を先輩として慕ってる。そして・・・。」

暫し間。
そして彼が言う。

「こちらの後輩が貴方を慕ってるように、貴方の後輩も俺を慕ってくれている。お互い様です。」
「オモイ・・の事ですか。」
「ええ。俺達は戦争中、同じ部隊だったんです。」

ああ、そう言えば。
オモイも言っていたではないか。
奇襲部隊で木ノ葉の同年代の少年達と仲良くなったと。
木ノ葉の上忍に先輩が出来たと。
あれはホヘトの事だったのか。

「貴方はザジの先輩になってくれた。だから俺は貴方を警戒しません。同じ後輩を持つ者として、貴方を受け入れたいんです。」

ピタリと固まった。
まじまじとホヘトを見つめ返す。
どうやら彼の言葉に嘘はないらしい。
彼は微笑んでいた。
穏やかに。
作り笑いでも何でもない、好意からの微笑みだった。
彼なら信頼しても良いのかも知れない。
彼が言った。

「少し、来てもらえませんか。オモイとザジも一緒で。」
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ