□通りすがりの6.5
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+過去話

「何か、ここに来んのもかなり馴染んで来たかな。」

棒付きキャンディを口の中で転がしながらオモイが呟いた。
カラリコロリ、と微かに飴玉が口内で転がる音がする。
隣で同じように飴(オモイがくれた物だ)を舐めていたザジは、友人に顔を向けた。
チェリーの味が口に広がり、その甘さを舌で感じながら。

彼の話ではこの飴は雲隠れではポピュラーなお菓子らしい。
カラフルな色と種類があり、色んな味が楽しめると言う物。
こっちで言う飴は包み紙に包まれたよくある袋入りの飴だ。
こう言ういかにも外国風なデザインは雲ならではなのだろう。
それをすっかり慣れた手付きで舐めるオモイは、やはり雲の忍なのだ。
戦争中でもずっと彼は飴を舐めていたように思う。
口に入れている飴が無くなったら次の飴、と言った感じで、彼が飴を舐めていない時はないに等しかった。
純粋に疑問に思って聞いてみると、「舐めてると落ち着くから」なのだそうだ。
「ガキの頃から舐めてるんだよ」と小さく笑ってオモイは返していた。
再び彼が言う。

「何となくだけど、皆俺を受け入れようとしてくれてるのが伝わってくるっつーか。」

何度もごそごそと脚を組み変えているオモイは、普段よりも少し落ち着きがないように思えた。
口数もいつもより増えている。
カラリと飴を転がし、オモイの顔を覗き込む。
落ち着かない様子できょろきょろと黒い瞳が周囲を見回していた。
そっと小声で囁き掛ける。

「ひょっとして、緊張してる?」
「めちゃくちゃ。緊張通り越してビクビクだよ。」

そう言うと彼は気まずそうに身動いだ。
いつも着ている雲の忍服ではなく、黒い着流しと言う格好だ。
あまり着慣れていないのだろう。
それでもそれは彼の褐色の肌と白髪に似合っていた。
落ち着いた色合いの着流しは、また違った印象を彼に与えている。
額当てもしていないのでパッと見ると別人のように見えた。
それだけオモイは額当てを取るとガラリと印象が変わる。
オンとオフの違い、と言おうか。
こうして見ると忍と言うより、ごく普通の少年に見えた。
それは自分も同じだ。
自分も今は額当てを外し、着流し一丁と言うラフな格好でオモイと二人並んで縁側で寛いでいる。
場所は言うまでもない。
日向の分家が居を構えている家だ。
ここに来てからそれなりに時間が経っているが、未だにオモイは緊張が解れないらしい。
━ま、ガチガチになるのも無理ないか・・・。
オモイが緊張する理由は何となく分かる。
日向は雲と因縁が深い。
未だに日向事件の事で大きな溝が残っていた。
何を言われ、思われているのか不安なのだろう。
いじめられた経験があると、人一倍そうした事が気になるものだ。
その言いようもない孤立感や不安感、恐怖感は自分でも理解出来た。
慰めの意味も込めて、ポンとオモイの背中に手を置く。
半ば不安、半ばぎこちなさのような色を目に浮かべながら彼がこちらを見る。
少しでも友人をリラックスさせようと、ザジは明るく言った。

「大丈夫だって。皆お前の事疑ったりなんかしねぇよ。ホヘトさんが直々に招いたんだし。」
「だと良いんだけどな。」
「心配無用。ホヘトさんはここじゃ大黒柱みたいな人だから。何よりお前は俺の友達なんだ。皆警戒は解いてるよ。」
「うん・・・。」

小さく息をつき、彼は縁側越しに広がる庭を眺めた。
暫くすると再びぎこちなさそうにもぞもぞと身動きをする。
慣れない着流しにやはり落ち着かないらしい。
オモイが着ているのはホヘトが引っ張り出して貸してくれた物だ。
数週間ぶりに木ノ葉を訪れたオモイとばったり鉢合い、二人で通りをぶらついていた所をホヘトに呼び止められたのだった。
「たまにはゆっくりしていけ」と彼が言い、自分達二人の為に部屋を空けておいてくれたのだ。
そして今に至る。
大きな家を見渡しながらオモイが呟いた。

「にしても、広いなやっぱ。さすがっつーか。」
「だろ?俺もここに来る度に思うよ。」
「ここにお前もよくお邪魔してんの?凄いな。」
「そ。寂しくなった時とかさ。俺一人っ子だから。」

棒付きキャンディを一旦口から出し、ザジは続けた。

「家に帰っても誰もいないんだ。時々それが嫌になる時があって。そう言う時によく世話になってる。」
「そっか・・・。」
「ここにいれば、皆がいるからさ。チャクラで分かるんだ。頭に響いてくるって言うか。」
「チャクラが・・・響く?」

首を傾げて彼が訊く。
やはりオモイにも分かりづらいようだ。
上手く言葉に言い表せないのがもどかしい。
「響く」物は「響く」のだ。
上手い表現はそれしか思い付かなかった。
━やっぱ感知タイプって、普通とちょっと違ってんのかな。
チクリと胸が痛んだ。
この感覚を誰かと共有したかった。
波紋のようにチャクラが「響いてくる」のだと。
触れていないけれど、直接チャクラに触れているような感覚になるのだと。
でもこれはザジにしか分からない感覚なのだろう。
否、正しくは感知能力者にしか分からないのだ。

「あー、ちょっと分かりづれーかな。上手く言えないんだよ。」
「・・俺の先輩にも感知タイプの人がいるけど、そういや同じ事言ってたな。」
「え、まじ?」
「その人もよく、チャクラが『煩い』とか、『響いてくる』とか、そんな感じの事を言ってんだけど・・・。ザジもそんな感じか?」

ドンピシャだった。
自分と全く同じだ。
全く顔が知らない人にも関わらず、同じ感覚を持っている人がいる事に純粋に嬉しくなった。
自分以外にもいるのだ。
同じ感覚を持つ「仲間」が。
オモイが少し羨ましく思えた。
彼が髪を掻き分けて呟く。

「寂しい、か・・・。俺は上に姉貴いっからあんま寂しくはねーんだよな。」
「お姉さんねぇ・・・。女兄弟ってどんな感じ?」
「つっても同い年だからあんま姉って感じはしないけど。でも性別違うと色々気遣うよ。特に女子って色々あるから。体の事とか。」

成程。
確かにそうだ。
男子にはない苦しさが女子にある事は自分も知っていた。
だからオモイはここまで気遣いが出来るのかも知れない。
胡坐を掻いていた脚を組み替えて彼が続ける。

「カルイも俺にとっては大きいけど、先輩達の影響もあるかもな。」
「オモイも?」
「ああ。そん中でも特に面倒見の良い先輩がいてさ。さっき言ってた感知タイプの人なんだけど。」
「へえ・・・。」
「結構素っ気なくて怖そうなんだけど、優しい人なんだよ。それで俺もその人に色々甘えてるんだ。」
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