□貴方の
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「俺は貴方の物です。」

静かな落ち着いた声で彼が言う。
何も、一糸すらも纏っていない白い肢体。
淡い淡黄色の髪。
暗い部屋の中で、その体の色だけがボンヤリと浮かび上がっているように見えた。

「この顔も、髪も、腕も、脚も、爪も、何から何まで。貴方だけの物だ。」

すらすらと彼が語る。
人形のように完璧なバランスの取れた、整った顔立ち。
この間の時よりもやや伸びた金髪。
しなやかな腕と脚。
ある程度筋肉は付いているが、それでも自分からすれば彼の肢体は細い。
自分の手を以ってすれば簡単に圧し折ってしまえるだろう。
普段は執務室で見掛けても何とも思わない彼の姿が、今は全く別の雰囲気を漂わせていた。
艶かしさと、幾ばくかの余裕。
再び彼が笑う。

「全て貴方だけの物。貴方の思うままにすればいい。」

微かに微笑んで彼が言う。
普段見せる無骨さや真面目さは何処へ行ったのか。
全く別人のように思えてしまう。
まるで飼い主に甘える飼い猫のような。
彼の薄い唇が言葉を紡ぐ。

「雷影様。」

ああ、その声で呼ぶんじゃない。
抑え切れなくなるだろうが。
それでも本能は正直だ。
真っ直ぐ彼に向かって歩み寄る。
小さな頭の載った折れそうな細い首にそっと手を添えた。
ひんやりと冷たい肌だ。
自分の体温の高い手を、その白い肌が冷やす。
ああ、本当にお前は愚かな奴だ。
だがそれでも。
それでも自分はこんなにも。

「・・ああ、お前は儂の物だ。」

小さく囁いてみせ、細い肩に手を置いた。
いかにも嬉しそうな光が、彼の漆黒の瞳に宿る。
そして満足げに微笑む。
猫が喉を鳴らすように。
純粋な奴だ。
純粋で単純。
恐らく自分が「今ここで死ね」と言えば、迷わずすぐにそうするだろう。
それ位この若者は自分に心酔しているのだ。
愚かなまでに、恐ろしく純粋で、単純で、従順な男。
それが彼なのだ。
そんな彼を愛おしいと思う自分もまた愚か。
━愚かなのは両方、か。
白く細い体に、腰に、背中に手を回しながらそう一人でごちた。

考える事などもう無意味なのだから。

+ + +

ベッドが軋む音。
乱れる吐息と嬌声。
仰向けに横になり、その上に腰を落としているシーを見上げる。
彼の下半身はしっかりとこちらの熱を咥えている。
彼が動く度に熱が擦れ合うのが伝わり、その度にシーは艶かしく喘いだ。

「・・はっ・・んぅっ・・・。」

が、自ら腰を浮かせて動かしてはいるもののその動きは鈍い。
どこか躊躇しているような動作だ。
ゆるゆると控えめに、それでも卑猥な動きで腰を動かしている。

「っ・・・っ。」
「・・どうした?」
「あ・・いえ・・・、ただ、あの。」
「・・恥ずかしいのか。」

こくりと顔を微かに赤らめて彼が頷き返す。
先程あれだけの事を言っておきながらも、まだ恥じらいは残っているらしい。
己の全てを捧げた相手に、淫らに腰を振り女のように善がる自分の姿を見られているのだ。
羞恥を感じてしまうのも無理はない。
それでも健気に言われた通りにするその姿がまたいじらしい。
そしてそれがこちらの嗜虐心を煽ると言う事に、彼は気付かない。
疑うと言う事を彼は知らないのだ。
嗜虐心と言う物すらも。

「・・しょうがない奴だ。」

苦笑をこぼし、シーの括れた腰を両手で掴む。
パチリと彼が黒い瞳を瞬かせる。

「?、雷影、様・・・。」

息をついて彼が呟いた。
微かに首を傾げている。
とろんと熱に浮かされた恍惚の混じった表情を浮かべて。
実際の年齢よりも若く、どこかおぼこさが残る表情だった。
思わずふっ、と頬を緩める。
━相変わらず、人を煽るのが上手いな。
これで当の本人は全くの無意識なのだから驚いてしまう。
彼が抱える、沢山の男共に盥回しで抱かれていたと言う過去にも納得がいってしまった。
そのつもりがなくてもこの青年は相手を夢中にさせてしまうのだろう。
そのせいで低俗な輩共に目を付けられたに違いない。
だがもうそれも今では過去の話だ。
もう誰にも彼は穢せない。
自分だけの人形。
自分だけの物だ。
腰に添えた両手に力を加える。
そして。

―――――ズン。

「あっ・・・っ。」

掴んだ腰を思い切りこちらの熱に押し付ける。
ビクリ、と彼の体が跳ねた。
同時にひくりと引き攣ったような声を漏らす。
弓のように白い背中が反り返る。
シーの中が熱に絡み付き、少しでも刺激を拾わんばかりに吸い付いてくる。
その姿にさらに体の奥が疼き出す。
掴んだ細い腰を浮かせ、再びずん、と押し付けた。

「あっ、や、ぁぁ・・・っ!」

あられもない声を上げてシーは身悶えた。
腰の付け根から反り上がる、括れた体。
汗ばんだ肌。
それが何にも増して艶かしく目に映る。
何度も腰を打ち付け、彼を喘がせる。

「やっ・・あ・・・っ。」
「奥まで吸い付いてくるな・・・淫乱な奴め。」
「あ・・っ、言わ、ないで下さ・・・っ。」
「こんな姿を晒してか?」
「あ・・あっ!ん、ふっ・・・っ。」

突かれる度にこちらの体の上で彼が身を捩らせる。
半強制的に馬乗りにさせられ、切なげに喘ぐ様はいかにも「犯されている」と言う言葉がピッタリだった。
だが実際は違う。
これは同意の上での情事だ。
何故か抱かれているシーはそんな風に見えてしまう。
いかにも容姿端麗なせいか。
健気に声を抑えようと必死に堪える姿を晒しているせいか。
考えても切りがない。
そんな事を考えている間も、動きを速めていく。
動きを速めていくと、同時に彼の嬌声も切羽詰まった物になっていく。

「はっ・・あっ・・らいか、げさ、ま。」
「っ・・、近いか。」
「はっ・・はぁ・・・っ、んぁ・・。」

貫かれた細い体が軋みを上げているように思えた。
中はドロドロに熱い。
普段から低めの体温が、こんなにも熱くなるものなのか。
それだけ彼も感じていると言う事なのだろう。
もっと、もっと。
そんな声が相手の肢体から直接囁き掛けてくるようだった。
嫌だ嫌だと首を振る癖に、中の熱はしっかりとこちらに絡み付いてきて離そうとしない。
理性よりも本能の方が最後は勝るものだ。
頭より体の方が正直なのだ。
こちらもそろそろ限界が来ていた。

「あっ、は・・・ッ!」

やがて彼が果てる。
脚を引き伸ばして、快楽に体を痙攣させて。
それに続くようにして自分も果てた。
彼の中にゆっくりと熱が溢れていく。
シーが煽情的な表情を浮かべて声を漏らした。

「あ・・、う・・・。」

繋がったまま、ゆっくりとこちらの胸に倒れ込んでくる。
絶頂に達した余韻の残る顔。
小さく肩を震わせ、尚もシーは体の奥に残った快楽の余韻に浸っていた。
感知タイプのせいなのか、人一倍彼は快楽に溺れやすい体質らしい。
途切れ途切れに吐息を漏らすその様が、何にも増して艶かしく思えた。
か細く息をしながら、彼が朧気な目をこちらに向けてきた。
そして囁く。

「らいかげ、さま・・・。」

ゆっくりと彼が目蓋を閉じた。
眠りについた猫のように。
そのまま意識を飛ばしてしまった若者の体に、そっと手を添える。
また痩せただろうか。
ここ最近は激務が続いていたから、そのせいもあるのだろう。
そんな疲労の溜まった体でこちらに付き合わせたのだと思うと、申し訳なく思った。
痩せた細身の体に手を回し、その肩を、背中を撫でる。
微かにシーが微笑んだ。
あどけない表情。
無防備なその姿に、彼が自分に身を委ねているのだと感じる事が出来た。
ゆっくり彼の体を離し、自分の横に寝かせる。
相変わらず彼は深い眠りの中にいた。
余程疲れていたのだろう。
痩身の白い体。
腰付きもやや細くなっているように思う。
もう暫くはこうしておいた方が良いだろう。
暗い部屋の中で天井を見つめ、やがて自分も眠りに落ちた。

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