□日はまた昇る18
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朝焼けの空が上空一面に広がっていた。
珍しく晴れたらしい。
この調子だと今日は一日快晴になるだろう。
雲が埋め尽くしている地平線に沿って空は橙色に染まっている。
それより上空は黄色、水色、紺碧へとグラデーションを描いていた。
そして、それを背景に幾つもの切り立った岩山が、黒いシルエットとなって聳え立っている。
現実の物とは思えない景色だった。
手を顔に翳しながら、思わず「綺麗だ」と心の中で呟いた。

「見送られてる気分ね。」

小さく笑って水影が呟いた。
同じようにほっそりとした手を色白の顔に翳して、朝焼けを眺めている。
まるで名残惜しいかのようにも見えた。
雲の里の門の前に立って、自分達は朝焼けを眺めていた。
朝早くに出発すると言う事で、シーと共に三人を見送る事にしたのだった。

「向こうではこう言うのは見ないんスか?」
「そうね、あまりないかも。何せ湿気が多いし、霧が出ている事が多いから。霧の里では朝焼けよりも朝霧の方がよく起こるの。」
「それもそれで何か綺麗っぽいですね。」

フフ、と微笑んで彼女が言う。

「ええ、とても綺麗よ。黄色く染まった霧が黒い山の上を漂って・・それで時々隙間から朝日が差し込んでくる。私があの里で一番気に入ってる景色なの。」
「見てみたいっスね。」
「また今度いらっしゃった時に見れるかも知れないわ。」

少女のように明るく笑って彼女が言う。
それにつられて思わずダルイも微笑んだ。
彼女は自分に大切な事を気付かせてくれた。
同じような苦しみを持つ者として、相方を心配してくれた。
自分にはない強さを持った若き里長。
これからもきっと、自分達は彼女に助けられるに違いない。

「決心は、ついたみたいね。」
「え?」
「貴方の相方さんの事。貴方の目、前よりも強い光を灯してるわ。」

水影の言葉に笑って答えた。

「水影さんのおかげですよ。俺は・・恵まれ過ぎてっから、言われないと気付けないっス。」
「誰だってそうよ。自分では気付けない。だいぶ時間が経ってから分かるものなの。」

くるりと振り返って彼女が続ける。

「私も青を守っていく。あの人は・・白眼の事もあるから狙われやすいの。
 医療忍で感知タイプだし尚更ね。放っておいたら遠くに行ってしまいそうな人だから。」
「何か・・逆転してません?影が側近守っちゃあれでしょ。」
「貴方も将来はそうなると思うわよ?」
「はは・・・。」

苦笑を漏らして笑う。
やがて視線を移した。
すぐ傍では相方と青が並んで朝焼けを眺めていた。
その隣には長十郎もいる。
忍刀を背負った姿はいかにも忍刀七人衆の名に似合っていた。
もう少し年月が経てば、恐らく彼も立派な忍に成長しているに違いない。
霧はこれから発展していこうとしている。
一度は壊れてしまった繋がりを、再び立て直していく為に。
今度こそあるべき姿の里になってくれればいいと思う。

「水影様、そろそろ行きましょうか。」
「ええ、そうね。道は長いわ。」
「えと、それじゃあお二人共、お世話になりました。」

青の呼び掛けで三人がこちらに向き直る。
ぺこりと長十郎が礼儀正しく頭を下げた。
長十郎に気さくに笑って答えた。

「いえ、世話になったのはむしろこっちっスから。あんたの剣捌き、なかなか良かったよ。」
「僕なんてまだまだこれからです・・いつか再不斬さんみたいな忍になれるように、頑張ります!出来る限り。」
「そりゃ楽しみだ。また打ち合い楽しみにしてますよ。」
「はい!」

青がシーに向き直る。
暫く黙っていたが、やがて言った。

「また霧に来ると良い。会う機会は沢山あるだろうから。」
「青さん・・。」
「元気で。無茶はするなよ。」
「・・はい。」

こくりと頷き返してシーが答える。
小さく笑い、青が彼の頭に手を置いた。
父親のようにくしゃくしゃと金髪を撫でた。
シーも笑い返す。
ぎこちなくはあるがそれでも嬉しげな笑みだった。
不器用な親子のようなやり取り。
くすりと水影が笑みをこぼした。
ゆっくりとシーに歩み寄る。
そして。

黙ってシーを腕で包み込んだ。
親愛と労わりの込められた抱擁。
彼の痩せた体を抱き込みながら彼女が言う。

「強く生きてね。その目を曇らせないでちょうだい。」

驚きと戸惑いの混じった目でシーが水影を見つめ返す。
青も目を見開いて彼女を見つめていた。
が、すぐにやれやれ、と言う表情を浮かべて苦笑を漏らした。
水影がこうした予想外の行動を取るのを彼は知っているらしい。
もしかするとこれが彼女の本来の顔なのかも知れない。
無邪気で無垢な少女。
その心を今も死なせずに持っているのかも知れなかった。
にこりと笑って彼女がぱっと体を離した。
そして言う。

「さあ、行きましょう。」

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