□通りすがりの4.5
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+過去話
+色々捏造注意

「小さい頃の事を思い出したよ。」

暗い部屋の中でポツリと彼が呟いた。
むくりとシーツから顔を上げ、ザジは隣に寝転ぶ友人に視線を向けた。
薄暗がりの中、彼の体がベッドの上で浮かび上がって見える。

「小さい頃?」
「ああ。」

そう答えるとオモイは寝返りを打ち、こちらに背中を向けた。
年の割りにがっしりとした体つきをした彼の背中は自分よりも広く見える。
部屋着として着ているタンクトップから伸びる褐色の腕もザジの腕より太い。
短く刈った白髪がぼんやりと暗闇に浮かび上がっていた。
額当てをしていないせいか、普段よりもさっぱりとした印象を感じさせる。
褐色の肌。
ここ近辺では見掛けない、白い髪。
木ノ葉で髪が白い人と言えはせいぜい老人位だろう。
オモイの場合は生まれつきこの髪色をしているのだそうだ。
彼だけではなく、先輩や他の仲間達もこんな髪色をしているらしい。
同じ十七歳でも、生まれた国が違うだけでこんなに体の造りが違うのだ。
向こうの里では彼で細い方だと言うからただただ驚くしかなかった。
さすがは忍体術重視の里と言うべきか。
向こうとここでは根本的に色々な事が違うのだ。
シーツに顔を埋めて彼の背中を見つめながらそんな事をふと考えた。

二人がいるのはザジの家だ。
任務で木ノ葉を訪れたオモイの為に、自分の部屋を提供する事にしたのだった。
家族はいない。
ザジが生まれて数年後に両親は死んでしまった。
だから今この家を使っているのは自分ただ一人だ。
誰かをこの家に招いて泊めるのは初めてだと思う。
同い年の友人なら尚更だった。
同年代の友人すら自分はいなかったのだから。

成長期真っ盛りの男子が二人、肩を並べて一枚の毛布に包まっているのは何とも奇妙な光景に思うかも知れない。
が、ザジは全く気にしていなかった。
むしろ安堵感すら覚える事が出来た。
誰かと一緒に寝るのも初めてだ。
隣に誰かが寝ていると言う感覚が、温もりが、チャクラを通して伝わってくる。
息遣い。
シーツの音。
その全てが自分を落ち着かせてくれた。
好奇心にくすぐられ、小さくオモイに聞き返す。

「何で?」
「今日助けた子見てたら、昔の事が頭に浮かんでさ。ほら、いじめっ子達から守ったろ?」
「ああ、あのどつかれてた子か。」

覚えている。
オモイと共に家路に付いていた時だった。
たまたま数人の子供に囲まれている男の子の傍を通り掛かったのだ。
小柄で気弱そうな少年を、意地の悪そうな子供達が囲んで立っている。
思わずうわ、と顔を顰めた。
典型的ないじめっ子と言う奴だ。
自分が一番近付きたくないようなタイプ。
子供の一人が男の子に向かって何か言う度に、いじめっ子達が声を上げて笑う。
時々わざと男の子の小さな体を押したり、突き飛ばしもする。
誰がどう見てもフェアなやり取りには見えない。
派手にやってるなぁ、いるよなこんな奴ら、と横目でその様子を通り過ぎようとした時だった。
さっきよりも露骨にいじめっ子達が男の子をどついた。
勢い良く子供が地面に手を付いて倒れ込む。
いじめっ子達が一段とおかしそうに笑い声を上げる。
むくりと起き上がった子供の顔は擦り傷まみれだった。
目に涙が溜まり、もう少しで溢れてしまう。
子供達の声が大きくなる。
無邪気で残酷な笑い声。
「やめてやれよ」と思わず言い掛けた時だった。

ザジの隣でその一部始終を見ていたオモイが急に動いた。
彼の足音に笑い声がピタリと止む。
いじめっ子達が一斉にこちらを向いた。
そのまま真っ直ぐ倒れている子供の元へ彼が駆け寄って行く。
小さな体の傍にしゃがみ込み、その子に手を差し伸べる。

『大丈夫かよ。立てっか?』

驚いたようにその子がオモイを見上げた。
そして恐る恐る彼の褐色の手を握る。
ゆっくり男の子を立たせると、今度はいじめっ子達に向き直る。
険しい顔で彼が声を荒げた。

『お前ら何やってんだ。』

いきなりの乱入者に子供達は固まったままだった。
目を瞬かせ、自分達よりもうんと年上の異国の忍の少年を見つめ返す。

『お前ら、アカデミーの子達だよな?』

オモイの言葉が夕暮れに染まる通りに響く。
子供達がこくこくと頷いた。

『じゃあ将来下忍になるんだろ。それで中忍になって、上忍を目指そうとしてる。そうだよな?』

再び子供達が頷く。

『じゃあ、仲間を傷付けて楽しんでるような奴が、立派な忍になれると思うか?』

しん、と周囲が静まり返る。
立ち止まってここで展開されている光景を眺めている人もいた。
通行人の大人達だ。

『なあ。そう思うか?』

彼が重ねて訊く。
子供達の表情は固まっている。
やがてその中でもリーダー格らしい少年が口を開いた。

『行こうぜ。』

その言葉が合図となって、逃げるように、散らばるようにいじめっ子達が去って行った。
通りに残ったのは自分達だけだ。
自分とオモイの二人と、男の子。
と、男の子が途端に泣き出した。
顔をくしゃくしゃにさせ、声を押し殺して涙を流す。
オモイが屈んでその子の髪をくしゃりと撫でてやり、小さく笑った。

『偉いな。よく我慢したなぁ。』

そう言うと懐に手を入れて何かを取り出し、子供に差し出す。
カラフルなビニールで包まれた棒付きキャンディだ。

『いつかきっと見返してやれる時が来るよ。きっと強くなる時が来っから。』
『ホント?』
『ああ、本当だよ。兄ちゃんだってそうだったんだから。』

ニッと頼りがいのある笑顔を浮かべて彼はそう言ってみせたのだった。
今でも鮮明に思い出せる。
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