文
□ねがいごと
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――――マジ、だるいし、ねむいし、やる気ねー。
ダルイは、くあ・・・、と大きく欠伸をすると、ガシガシと髪を掻き混ぜた。
窓越しに外へ目をやると、丘の上の桜が、白く烟って咲いているように見えた。
―――――急ぎの仕事もねーし、とりあえずサボるか。
ひらりと窓を飛び越えると、建物の屋根をつたって、丘の上にある、お気に入りの場所へと向かった。
目指す桜の木は青空に向かって枝を伸ばし、薄紅色の花のなかに、緑の葉が混じり始めていた。
その下に、シーが横たわっているのが見えた。
どうやら眠っているようだった。
ダルイは気配を消して近付くと、その隣の草の上に座った。
花の影がシーの頬に映り、葉の隙間から差す光が、その睫毛を金色にかがやかせていた。
ダルイは眩しげに目を細めた。
シーは、ダルイの顔を見るたび、いつも眉間に皺を寄せて小言ばかり言うのに、今は穏やかな顔で眠っている。
ベストも額宛も外して横に置いてあり、いつもきっちり首の上まで閉まっている上着のジッパーが鳩尾まで開き、その白い肌が露になっていた。
見れば見るほど、その無防備っぷりに、言いようもないイライラが募ってきた。
――――こんなとこ、誰かに見られたらどーすんだよ。
ダルイは、シーの髪の束を掬って、控え目に引っ張ってみた。
だが、シーは無造作にダルイの手を払いのけて、寝返りを打っただけだった。
「・・・コイツ起きねえのかよ」
ダルイはシーの髪をむんずと掴むと、思い切り引っ張った。
「いたたたたたたたっ」
「あ、やっと起きた」
「ってーな、てめえ、いきなり何すんだよっ」
シーは頭をさすりながら上体を起こすと、ダルイの足を蹴った。
「いってーな」
「お返しだ」
シーは、ふん、と鼻を鳴らした。