□通りすがりの5.5
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「ハッ・・・ハッ!」

道場に二人の人物が手を交え、打ち合う音が響く。
板張りの床を踏み、激しく足を組み替えては着地する裸足の音も。
しきりに自分達の手がぶつかり合う。
汗が滴り、落ちていく。
お互いの息遣いが乱れ合う。
相手の手がこちらを狙ってくる度にそれを受け止め、自分も負けじと応戦する。
お互い一歩も引かない。
もしここに見物者がいたなら、今の自分達の勝負は良い勝負に見えるだろう。

いったん互いに距離を取り向き合う。
乱れた呼吸音と、緊迫感。
間合いを取りつつ構えは崩さない。
狙いを定め、再び構える。
自分達日向家に代々伝えられている体術、「柔拳」の構えだ。
息を整えながらトクマは目の前で構えている自分の先輩(親戚と呼ぶ事も出来る)を見据えた。
白眼を発動させている為、相手の経絡系がよく見える。
稀な才能を持つ己の目は、点穴すらも見る事が出来た。
こちらに向かって構えていた彼が不敵に笑ってみせる。

「どうしたトクマ。まだまだ本気には見えないぞ。」

煽っているかのような口調。
久々の二人での修行に高揚を隠せないらしい。
それは自分も同じだ。
相手の言葉にニッと笑い返してトクマも応戦する。

「ホヘトさんこそ、息が上がっているようですが?」
「俺はまだまだやれる。さあ、全力で掛かって来い。」

そう言うとホヘトは構え直した。
頭の上の方で結んだ長い黒髪。
凛々しい顔立ち。
目の下に刻まれた、彼特有の彫り。
自分と同じように白眼を発動させている為、目元には血管が浮き出たような筋が走っていた。
自分より六つも年上のホヘトは、分家では結構古株のような存在だった。
子供の頃から彼には世話を掛けてもらっている。
今ではもう兄のような存在だ。
こうして二人で修行をする事も多い。
小さく口角を上げてトクマも構え直す。

「・・分かりました、それでは・・・。」

一瞬の間。
次の瞬間、トクマは床を蹴った。
真っ直ぐ素早く間合いを詰め、相手に詰め寄る。
チャクラを手に集中させ、思い切り掌を相手に向かって突き出した。

「――――・・ハッ!」

バシッと乾いた音。
ホヘトの手がその一撃を防ぐ。
すかさずもう一発。
さらにもう一発。
何度も柔拳を繰り出し、相手の攻撃を避けながら隙が生じるのを伺った。
彼の方も負けずにトクマの攻撃を受け止め、防ぎ、柔拳を繰り出していく。
そして。

「っ。」

やがてホヘトの柔拳がこちらの頬を掠めた。
━!
ぐらり。
咄嗟に足に力を込める。
それでも一瞬だけ体が揺らぐのを感じた。
━しまった!
僅かに生じた隙。
その一瞬の隙をホヘトは見逃さなかった。
それを狙って迷わず彼が柔拳を放つ。

「――――・・ハァァッ!」

━八卦空衝!

ホヘトの手がこちらの胸に当たり、トクマは自分の体、体中の神経に衝撃が走るのを感じた。
次の瞬間、体が吹っ飛ばされる。
柔拳から放たれた衝撃波のせいだ。

「ぐぁ・・・ッ。」

床に叩き付けられるギリギリの所で何とか受身を取る。
それでも幾らか腕や膝を打ち付けてしまった。
しん、と道場が静まり返る。
顔を流れ落ちる汗を腕で拭い、トクマは目の前で佇むホヘトを見つめた。
そしてゆっくり頭を下げる。

「負けました。」

ホヘトがこちらに歩み寄る。
困ったように笑みを浮かべて彼に言った。

「やっぱり柔拳じゃ貴方には敵いませんね。俺もまだまだだなぁ・・・。」

手を貸してトクマを立たせ、笑みを溢して彼が言う。

「そんな事はないぞ?さっきのはなかなか良かった。もう人踏ん張りしないと俺は超えられないがな。」
「ホヘトさんを超えられる日なんて来るんでしょうかね。」
「きっと来る。お前の目は日向一なんだ。お前には素質があるよ。」

肩を竦めてトクマは答えた。

「宝の持ち腐れですよ。」
「まあそう言うな。敵の感知や偵察、洞察力や透視力に掛けては里の中でお前の右に出る者はいない。自信を持てよ。」

そう言うとホヘトはこちらにタオルを投げて寄越した。
投げられたそれを受け取り、額を拭う。
暫しの休憩だ。
いつもならその後もすぐに再び修行を再開させる。
だが今日はやるべき事があった。
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