□通りすがりの5
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「木ノ葉の病院にも、だいぶ慣れてきたんじゃないか?」

徳利を手に持ち、猪口に酒を注ぎながら火影はそう訊いてきた。
口に運ぼうとしていた猪口を持つ手を止め、シーは向かいに座っている相手を見つめ返した。
見ると彼女は最後の一滴を注ぎ終えた所だった。
丁度徳利の酒が切れてしまったらしい。
威勢良く手を叩き、貫禄のある快活な声で彼女が店内に呼び掛けてみせる。

「お銚子二本!持って来てくれ。」
「あいよー、飲み過ぎんなよ?綱手様。」

店の奥から店主らしき人物の快い返事が返ってくる。
おそらくここは火影の常連先なのだろう。
改めて火影に連れて来られて訪れた、この賑やかな居酒屋を眺め回した。
自分達の他に、十人程客が入っている。
仲間と談笑し酒を酌み交わしている者。
一人で静かに酒を飲んでいる者。
何気なく店内を見回していると、二人組で座っている客に目が留まった。
上忍らしい男性二人だ。
ヒソヒソと何やら話し込み、こちらの席に意味ありげな視線を送っている。
と、パチリと彼らと視線がぶつかった。
こちらが首を傾げてみせると、慌てて彼らは目を逸らした。
内心でシーは溜息をついた。
国外に出るといつもこうだ。
何かしら皆が好奇の目で自分を見てくる。
相方が同行している時なら何も気にしない。
が、一人の時となると途端に落ち着かなくなる。
今も時々興味深げに周りの客達がこちらをチラチラと盗み見てくるのを、嫌でもシーは感じ取る事が出来た。
皆気になっているのだ。
火影と同席している、あの金髪の人物は誰なんだ?
男か?
女か?
あの人は誰なんだ。

『見ろよ、俺の女が来たぜ。』
『違ぇ、俺の女さ。』
『本当に付いてんのか、あいつ?』

フラッシュバック。
脳裏に響く声。
笑い声。
回廊を歩く自分を見た途端、指を差してわざと聞こえるように言ってきた、彼ら。

ドクン。

━――――・・・っ。

咄嗟に眩暈を感じた。
注目の的になるのは、好きじゃない。

「ええ、まあ・・貴方のお弟子さんにも助けられていますから。」

周囲の好奇に満ちた視線を無視し、シーはそう答えた。
火影が満足げに頷いてみせる。

「サクラだな。なかなか良い医療忍だろう?私の自慢の弟子さ。」
「そうですね。彼女は・・聡い子だと思います。これからどんどん伸びるでしょう。」
「嬉しい事言ってくれるじゃないか。」
「事実ですから。」

こちらの言葉に火影はニッと口角を上げた。
丁度その時店員が新たな徳利を二本持って現れた。
運ばれてきた酒を受け取り、彼女は自分の猪口を空にすると再びそれに酒を注いだ。
本当によく飲む人だ。
次々に酒を飲む相手の様子を眺めながら、淡々とシーはそう思った。
自分もそれなりの量は飲んでいるが、頭はしらふの時と変わらずにはっきりしていた。
何だかんだ言って自分自身もかなりのうわばみだ。
火影も自分も同じ位の量の酒を飲んでいた。
が、顔色一つ変わっていないシーに対し、彼女は頬が仄かに赤く染まっている。
沢山飲みはするが酔いやすい体質なのかも知れない。
ずいっと徳利をこちらに突き出して火影が言う。

「よーし、お前も飲め!今日は飲み明かす!」
「仮にも医療忍の貴方が、酒を飲みまくっても宜しいんですか。」
「それを言うならお前も同様だろう?」

挑戦するように彼女が笑う。
確かにそうだ。
否定は出来ない。
肩をすくめてみせ、目の前に置いてある唐揚げの皿をつつく。
視線に気付いて顔を上げると、火影がこちらの顔を観察していた。
しげしげとシーの顔を見つめて彼女が呟く。

「・・それにしてもお前、酒に強いんだな。見た目とは裏腹に。」

ああ、そう言う事か。
小さく笑ってシーは答えた。

「下戸だとお思いでも?」
「その顔で大酒飲みとは思えないからねぇ。」
「生まれつきです。雷影様の付き合いをしている内に鍛えられたのもありますが。」
「ああ・・あいつは化け物だからな。酒と速さとチャクラの量にかけては。」
「存じています。」

親しみの篭った笑いをこぼし合う。
自分達しか知らない事を共有していると言う、共通の意識から出た笑いだった。
再び火影が口を切った。

「お前は何だか・・シズネと似てるな。」
「?」
「私の付人だよ。お前も会ってる筈だぞ?黒髪で、黒い着物の。」

思い出した。
確か小さな子豚を連れていた女性の事だ。

「何故似てると?」
「どことなく、な。そう思わせるのさ。」
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