□日はまた昇る17
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静かだった。
そして温かい。
包まれているような、そんな心地良さ。
もう何年も自分が追い求めてきたような、そんな心地良さだった。
━――――・・・?
ゆっくりと目蓋を上げる。
視界にまず映ったのは天井だ。
電気の消された電灯と白い天井。
誰かのアパートの一室。
ここは?
自分の部屋ではない。
誰の部屋だったか。
やがて暫くしてそれを思い出す。
昨夜の出来事も。
優しく触れてくる熱。
シーツの感触。
そして自分の名を呼ぶ、温かみの篭った低い声。

『シー。』

━ダルイ・・・。

そうだ。
ここは相方の部屋。
そして寝室でもある。
そのままボンヤリと天井を眺めた。
久しぶりにここで朝を迎えた気がする。
最後にこの部屋で目覚めたのはいつだった?
ダルイの隣で目を覚ましたのは?
もう何か月も前の事だ。
またこうして昔のような日に戻れた事が、信じられなかった。
自分はここにいる。
雲隠れの里に。
相方の傍に。
奇跡だった。

隣に目を向けた。
自分の隣のベッドのスペースでは、ダルイが横になって眠っていた。
目蓋は閉じられ、表情は夢の中にいる顔その物だ。
白髪が顔に掛かり、目が隠れ掛かっている。
子供みたいに開けっ広げな寝顔だった。
それに酷く安堵を覚えてしまう。
何気なくその顔に、褐色の頬に片手を添える。
そしてじっと彼が眠る様子を眺めた。
━お前が、初めてだった。
自分を好きだと言った男。
自分を綺麗だと言ってくれた男。
そして、自分が初めて心と体を明け渡した男。
初めてだった。
何もかもが。
この男と過ごした時間は、何をとっても初めての事のように思えた。
情事の時でさえも。
抱かれる事にはもうすっかり慣れてしまっていた。
拭っても拭っても、消せない程に。
誰もが自分の体を貪った。
労られた事など一度もなかった。
彼らにとって、自分は「白人のあばずれ」でしかなかったのだ。
女の顔をした誰にでも腰を振る白んぼのガキ。
売女。
人形。
投げ付けられてきた言葉は幾らでも思い出せた。
でも、ダルイは。
ダルイだけは。
━こいつだけは、違った―――・・・。
ダルイとの行為は今までのどの相手の時とも違っていた。
初めて温もりから安心出来るのだと言う事を知った。
初めて苦痛を感じない、優しい情事を知った。
初めて、抱かれたいと思った。
こんなの生まれて初めてだった。

そっと相方の頬を優しく撫でる。
静かに涙を流したまま。
優しく、優しく撫でていく。
触れているだけで温もりが伝わってくる。
暖かくて、優しい。
暖かい。

━?

暖かい・・・?

━―――・・・っ?

咄嗟に手をかざし、掲げてみる。
違う。
何かが違う。
何が?
目を閉じてみる。
何かが頭で響いている。
波紋のような何か。
それが幾つも交わり合い、共鳴し合っている。

━まさか。

ガバリと起き上がり、シーは自分の手を見つめた。
手を握り、また開く。
周りの気配に意識を集中させた。
途端に頭の中で波紋が生じ、響き合う。
それはあまりにも懐かしい、ずっと恋焦がれていた感覚だった。
戻っている。
戻って来たのだ。
感覚が、気配が、何もかもが。
鮮明に感じ取れる。
すぐ傍にある温もりを。
チャクラを。
ダルイのチャクラを。
分かるのだ。
チャクラが分かるのだ。

━『お前』、なのか?

脳裏で誰にともなく問い掛けた。
誰に対してでもなく、内なる自分に。
カーテンから漏れ出す陽の光が、うっすらと部屋を照らし出していた。

(ただいま)

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