□日はまた昇る13
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71、72、73。
74、75、76。

「フッ・・・フッ・・・。」

77、78、79。
80、81、82。

「フッ・・・、ハッ・・・。」

小さく息をつきながら腕立て伏せを繰り返す。
病室の床で何度も腕を立てては伏せると言う動作をを続けていた。
ポタリとリノリウムの白い床に汗が滴り落ちていく。
だんだん腕が引き攣り肩が悲鳴を上げ始めた。
体を支える上腕が微かに震え始める。
頼む。
持ってくれ。
後少し、後少し。
そう言い聞かせて何とか続けようと体を叱咤した。
88、89、90――――。

「――――・・・っ、ハッ・・・ッ!」

どさり。
どうやらこれが限界のようだ。
プツリと糸が切れてしまいその場で崩れ落ちてしまう。
小さく荒い息をつき、ごろりと床に仰向けに寝転んだ。
額の汗を拭ってゆっくりと息をつく。
蛍光灯の光に目を細めて天井を見上げた。
そして呟く。

「・・・鈍ったな。」

認めたくはなかったが、長い入院生活のせいで体がすっかり衰えてしまったようだ。
少し鍛えようとするだけですぐに疲れてしまう。
筋肉が縮み痩せてしまったせいだろう。
━また鍛えないと駄目か・・・。
元に戻すにはまだ時間が掛かるに違いない。
先を思うと溜息が洩れた。
だが仕方ない。
生きるか死ぬかの境を彷徨っていたのだ。
生きて帰って来れただけでも良しとしなければ。
青もそう言っていたではないか。
そして、何よりも今一番気に掛かっているのは。
━もう一度、試してみるか。

むくりと起き上がると足を組んで胡坐を掻いた。
両手で印を結んで目を閉じる。
まずは落ち着いてゆっくり息を吐いていく。
暗闇の中をじっと見つめ、意識を掻き集めた。
そして今度は周囲のチャクラの気配に意識を集中させる。
ひたすらじっとその場で座禅を組み、周囲のチャクラを少しでも感じ取ろうとした。
が。

━・・・駄目、か。
何も感じない。
一切何も。
印を解いて息をつく。
チャクラはおろか気配すらも感じ取る事が出来ない。
未だに己の感知能力は麻痺したままのようだ。
もうそろそろ回復していてもおかしくはない筈なのだが。
焦っても何も起こらない事は分かっている。
だがやはり気になってしまう。
感知能力は自分の全てなのだ。
自分の一部と言っても良い。
それが無くなってしまえば落ち着く事は無理と言う物だった。
日を増すごとに焦りだけが募ってしまう。
━・・それとも、何かが足りないのか・・・?
胡坐を掻いたままその場で考え込む。
目覚めてだいぶ時間が経っているが、まだ感知能力は戻っていない。
青は一時的な自己防衛だと言っていた。
体を外部の刺激から守る為だと。
だが、本当にそれだけなのだろうか?
分からない。
どうすればいい?
━どうすれば――――・・・。

窓がコツコツと叩かれる音で現実に引き戻された。
咄嗟に病室の窓を振り返る。
窓は閉め切られ、カーテンも閉められていた。
鳥か何かだろうか。
立ち上がって窓際に歩み寄り、おもむろにカーテンを開く。
そして思わず目を見開いた。

窓の向こうに見覚えのある顔がひょっこりと頭だけを出してこちらを見つめていた。
白い額当てに黒いサングラス。
髭を生やした四角い顔。
頬に刻まれた入墨。
首に巻かれた白いマフラー。
間違いない。
ビーだ。
だが何故彼がこんな所にいる?

「ビー?」

驚いて名前を呼べば、彼はニヤリと悪戯っぽい笑みを浮かべてみせた。
窓ガラスを指で突き、ゆっくり口を動かしてみせる。

『コ・コ・開・ケ・ロ。』

相手の唇の動きを読み取り、すぐにシーは窓を開けてやった。
どうして窓から入って来ようと思い付いたのか。
何故自分の病室を選んだのか。
そもそも何故病院に来たのか。
訊きたい事は山程あったものの、それは置いておいた。
ビーの事だ。
誰も思い付かない事を思い付く彼の行動に、いちいち突っ込んでいては切りがない。
長年の経験でシーはそれを十分熟知していた。
ビーが窓枠に足を掛け、体を屈ませて部屋に降り立つ様子をただ黙って眺めた。
サングラスを掛け直すと彼は小指と人差し指を立てた手をこちらに向けてきた。
普段と変わらない明るい調子で彼が言う。

「久しぶりだな、同胞♪お前との再会、切望♪」

相変わらずの彼のラップに、思わず噴き出してしまった。
思えば最後に彼に会ったのはもう随分前になる。
普段は下手くそに聞こえる彼のラップも、今はこちらを安心させる物に思えた。
何も変わっていないビーの様子に、安堵が胸の奥に広がるのを感じた。

「またあんたのラップが聴けるとは思わなかったよ。」
「ノーノー、心外!お前の生還ずっと信じて待ってたんだぜ、俺!」
「そうだったのか・・・。」

小さく笑みを浮かべて笑い返した。
ビーのこうした無邪気な言動が、今は身に染みる程有難い。
やがて話題を移し、シーは彼に問い掛けた。
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