□彷徨
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どこにもない。
ここにもない。
いくら手を伸ばそうと我武者羅に足掻こうと、決して辿り着く事はない。
ひたすら居場所を探して今日も自分は何かに縋る。
そうする事しか自分には出来ないのだから。

+ + +

「あっ、んあっ・・・。」
「おら・・、もっとよく咥えてろ。」
「や・・!はぁ・・っ。」

薄暗い部屋に切なげな甘い声が響く。
ギシリギシリと寝台が軋み、音を立てる。
皺苦茶に乱れたシーツの上で悩ましげに体をうねらせ、後ろから細い腰を掴まれ揺さ振られながら、シーは呼吸を荒げて喘いでいた。
その様子に、背後で自分に重なっている相手の男が満足げに呻く。

「っは・・・、こないだよりも良い声で善がるようになったじゃないか。」
「あ・・・っ、や、ぁぁ・・・っ。」

抉るように奥を貫かれる。
敏感な箇所を擦られビクリと体が硬直した。
何かがせり上がってくるような甘い痺れ。
その全てがシーを支配していく。
もっと、もっと。
もっと与えて。
心がそう叫ぶ。
今の自分に出来る事と言えば、際限なく与えられる快楽に喘ぐ事だけだった。

「お前は上玉だな…。忍にしとくのが勿体ない位だ。」
「っひぅ・・っ!、うあ、あ、あっ・・・。」

ぬち、と繋がっている箇所を集中的に犯され、あられもなく啼く。
痛いのか、気持ち良いのか、もうそれすらも分からなくなっていた。
忍服は全て剥がされ、視界は自身の額当てで目隠しをされている為何も見えない。
両手首は相手の上司の額当てで縛られており、抵抗出来ないようにしてあった。
尤も、例え拘束がなくても大した抵抗は出来ないだろう。
何せ相手の方が一回りも大きな体格をしているのだ。
思春期を迎えたばかりの自分の体はまだまだ発達途上と言ってもいい。
全体的に華奢な肢体。
まだ声変わりもしていない、男子にしては高い声。
何よりも顔立ちもまだ子供のそれだった。
昂り火照った白い肌が、また男の劣情を誘う。
繋がったまま彼がこちらに上体を傾け、シーの細い背中に被さった。
耳元に顔を近付け囁く。
その間も腰をさらに押し付け、前を扱く事も忘れなかった。

「お前・・確か感知タイプだったか・・・。」
「っ、あ・・っ!、うあっ・・、やぁっ・・・!」
「自分の中に、他人のチャクラが埋まってる気分は、どうかな。」
「・・・っ、ぁあ!あああっ・・・、ふっ・・・。」
「どうだ?俺のチャクラが分かるか。」

ずぶずぶと何度も腰を打ち付けながら彼が問い掛ける。
思わずぎゅっと目を瞑った。
押し寄せる快楽の波に目から涙が流れていく。
気持ち良い。
痛い。
気持ち良い。
快楽から来る涙なのか、苦痛から来る涙なのか。
極限まで昂られた敏感な体にとって、快楽は最早痛みに等しい。
訳も分からずにただ涙を流した。
もう声もまともに出す事が出来ない。
ずっと喘いでいたせいで、中性的な声はすっかり掠れてしまっていた。
性器は男に扱かれ愛撫され続けたせいで、ぐちゃぐちゃに濡れていた。
何度も絶頂を迎えたせいか、もう淫汁には何の色も混じっていない。

「俺のチャクラは、感じ良いか。」

男の呼び掛けに何度も首を振る。
そんな事を聞かれても分からない。
限界まで高められた感覚が容赦なく全ての刺激を拾っていくせいだ。
それが体温なのか、体の奥底に宿る熱なのか、自分の内側に絡み付いてくる男の性器が与える刺激なのか、チャクラなのか。
もうそれすら分からない程、何もかもが雁字搦めになっていた。
目隠しをされている事も相まってか、全身の感覚が研ぎ澄まされ、貪るように快楽を拾う。
封じられた視覚を補うかのように他の感覚が鋭敏になっているのだろう。
繰り返し体の中に入って来る異物に、直接伝わってくる熱とチャクラに頭が追い付いてくれない。

「っ・・・、出すぞ。」
「あ・・あ・・っ、や、ぁ、ぁあぁああっ・・・!」

ずん、と奥を貫かれる。
体中を快楽が駆け抜けていく。
熱く爆ぜた物を胎内の奥に感じた瞬間、シーは意識を手放した。

+ + +

ぱたぱたと小さな足音だけが辺りに響く。
誰もいない廊下を足を引き摺りながら歩いて行く。
今何時なのだろうか。
もう深夜を過ぎた所に違いない。
体に残る疲れと眠気が徐々に浸透していく気分だった。
着流し一枚し以外は何も身に付けていない為、少し肌寒い。
廊下に張り巡らされた窓に目をやり、はたと足を止めた。
真っ暗な闇の中に自分の姿が映っている。
青白い顔。
乱れた金髪。
着流しに身を包んだ華奢な体。
そっと着流しの襟を捲ってみる。
白い首や鎖骨には点々と赤い痕や歯形が付けられていた。
まるで染みのようだった。
━―――穢れてる。

「―――――っ・・。」

途端にぞわりとした寒気に襲われる。
小さく肩を震わせると、堪らず駆け出した。
だだっ広い回廊を、階段を、通路を抜けて行く。
売女。
淫売。
淫乱。
そんな言葉が頭に浮かぶ。
走りながら首を振る。
違うと叫びたかった。
自分は皆と変わらないと言いたかった。
だがどうだ。
自分がしている事は何だ。
いくら任務でも、体を売って報酬を貰っている事に変わりはない。
俺は一体何なんだ?
自分がどうしようもなく情けなく、卑しく、淫らな存在に思えた。
俺はただ逃げてるだけじゃないか。
現実から目を逸らしてるだけじゃないか。
涙が溢れ、頬を伝う。
━俺は、必要とされてない――――。
里の裏路地でよろよろと立ち止まる。
崩れ落ちるように膝を突き、地面に手を付いた。
涙が地面に染みを作っていく。
地面に指を食い込ませ、土を握る。
爪が土で汚れても気にしなかった。
押し殺した声を漏らし、その場で泣き崩れた。

「・・・っ・・!・・ぅぁぁぁぁ・・・っ!」

醜い。
醜い。
こんなにも自分は醜いのだ。
俺だって。
小さくそう口を開いた。
俺だって。

「俺だって、こんな事がしたいんじゃない・・・っ!」

嫌だった。
やめてしまいたかった。
でもそれが出来ない。
こうやって縋っている事しか自分には出来ないのだから。
ただ認めてもらいたくて。
受け入れてもらいたくて。
ただそうされたい。
それだけなのだ。
その為だけに女のように抱かれに行く自分は。
俺は。
こんな奴に何の価値がある?
暗い路地にひたすら嗚咽が響いては闇の中に消えていった。

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