□揺らぐ
1ページ/3ページ

それは本当に些細な事だった。
何でもないような事。
確か誰かに肩を軽く叩かれたのだと思う。
ほんの挨拶と言う気持ちで相手もそうしたに違いない。
が、何故かその直後に世界が回った。
いきなり視界がぐらりと揺れ、ぐるぐると景色が回り始める。
回って、回って。
立っていられなくなり膝を突いた。
せり上がる嘔吐感に堪らず口元を手で押さえた。
気持ち悪い。
気持ち悪い。
何故こんなに吐きそうな気分なのだろう。

「ぅ・・・ぇ・・・。」

視界がぐにゃりと歪み、輪郭がぼやけていく。
回る、回る。
速い、速い。
凄まじい勢いで目が回る。
とうとう仕舞には倒れ込んでしまう。
周囲から駆け寄って来る足音が聞こえてくる。
その音すらも頭に反響し、うるさい雑音に聞こえてきた。
気持ち悪い。
きもちわるい。
きもちわるい。
キモチワルイ。
ダレカ。
タスケテ。

「シーさん?!大丈夫ですか!」
「おい、誰か手貸せ!早く病院まで運ぶぞ。」
「しっかり!聞こえてる?起きてる?」

ああ、うるさい。
頼むから静かにしてくれ。
頭が割れる。
音が、声が、空気が、頭に響く。
周囲のチャクラすらも、一斉にシーの頭に追い打ちを掛けてくる。
やめろ。
やめろ。
静かにしてくれ。
頼むから。
脂汗が浮き上がり、顔を伝っていく。
頼むから、誰か――――――。

「触れんなよ。」

突然低い声が響き渡った。
しん、と辺りが静まり返る。
━・・・・・?
ぼやける視界に目を凝らすと、見覚えのある顔がこちらの顔を覗き込んでいた。
褐色の肌に白い髪をした男。
自分と同い年だと言うのに、シーよりも大人びている相方の顔。
いつものだるそうな顔には無表情を浮かべている。
何の感情もその目には浮かんでいない。
が、何故かその表情を見た途端言いようもない安堵を覚えた。

「シー。」

彼の大きな手がこちらの肩に触れ、ゆっくりとシーの痩せた体にその褐色の腕が回された。
心地良い温もりのある、それでいて豹のような鋭さを持ったチャクラも同時に伝わってくる。
自分が最も落ち着く事のできるチャクラ。
━・・ダルイ・・・・・?
そう思った時にはもう自分は限界だったらしい。
そのまま視界が暗転した。

+ + +

「ストレスから来た急性の胃炎ですよ。要するに働き過ぎです。」
「・・・そうか。」

寝かされたベッドの上で、シーはげんなりと返事を返した。
散々吐いたせいか体の中がスカスカだ。
別に馬鹿食いをした訳でも飲酒をした訳でもない。
それなのに何故か胃が拒絶反応を起こしている。
正直な所今もかなり辛かった。
フワフワと浮いているような何とも言えない吐き気が余計に気持ち悪い。
カルテを手にした医療忍が質問した。

「ちゃんと食事は摂っていましたか?」
「・・毎日取ってる。」
「睡眠は?」
「・・・。」

思わず黙り込む。
思えばここ最近はあまり寝れていなかった。
やる事が多く多忙だったせいだ。
それに度重なる雷影兄弟の喧嘩の仲裁もあり、肉体的にも無理が重なったのかも知れない。
おまけに怪我人の治療もあったから、チャクラ不足になっていたのだろう。

「今は体を休めて下さい。ただでさえ疲労でガタが来てるんですよ。無理をし過ぎなんです。」
「・・・だが誰があの方達の喧嘩を止めるんだ。」
「ダルイ隊長なら何とか出来る筈です。でもやはり一番効果があるのはシーさんが叱った時なんですけどね。」
「・・・はぁ。」

結局シーが不在ではどうしようもないのだろう。
一体自分にどうしろと言うのだ。
思わず溜息を漏らした。
心の底から呆れを込めて。
雷影にしても、ビーにしてもそうだ。
全くどこの子供だと言うのだろう。
自分よりも一回りも二回りも年上の筈だと言うのに、何故か彼らはお互いに懲りないのだ。
自分の感情を一方的にぶつけるだけの、ただの子供同士のような喧嘩。
その度に自分が間に入っては二人を仲裁してきた。
まだ若い上忍に、里の上に立つ長とその弟が説教されているのである。
情けないとは思わないのだろうか。
自分はただの感知タイプの医療忍なのだ。
雷影に説教など到底出来る身分ではない筈だと言うのに。
何故かあの兄弟はシーに対してだけはそれを認める所があるのだ。
一体どういう事なのだろう。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ